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サレ夫が親権を取って離婚する方法とは?【離婚弁護士がリアルを解説】

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:アフロ)

1 はじめに

伊藤淳史さん主演のテレビ朝日系土曜ナイトドラマ『離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛』が話題となっています。

サレ夫とは、「妻に不倫をされた夫」を指す俗語です。

写真:アフロ

このドラマは単なる不倫ものではなく、妻に不倫された夫が離婚自体には抵抗がないものの、子供の親権を取るまでは離婚しない(できない)という切実な内容となっています。

私は、兵庫県西宮市で家事事件を中心とする法律事務所を経営する弁護士ですが、このドラマの内容自体はリアルでもよくある話であり、毎回興味深く拝見しています。

今回は、妻が不倫していた場合に離婚して子供の親権は取れるのか、そして夫が親権を取る場合に必要なこととは何かを解説していきたいと思います。

2 妻が不倫をしていた場合、親権は取れるのか?

「不倫をしているような妻は親権者として失格だ、離婚して夫が親権を取るのは当然のことだ」と考えられる方もいらっしゃるかもしれません。

私の事務所にも、「妻が不倫をしていました。離婚したいのですが、愛する子供の親権は取れるのでしょうか」というご相談はよくあります。

父親としては当然の感情だと思います。

ただ残念ながら、今の裁判実務では、仮に妻が不倫をしていたとしてもそれだけでは夫が親権を獲得するのには必ずしも有利とはいえないのです。

ドラマでも言われていますが、子供がいる夫婦が離婚する場合、父親が親権を取れるのは1割程度というのが実情なのです。

https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411869

3 親権の判断で重視されること

裁判所が親権を決める際に重視するのは、ごく簡単に言うと、「現在どちらの親が子供の面倒をみているのか」「今までどちらの親が主に子供の面倒をみていたか」という二点です。

写真:イメージマート

裁判所は、まず、現在の子供の環境を変えてしまうことは子供のためにならないと考えます。

子供にとって、安定した生活環境で育つことが大切だからです。

現在、妻が子供を連れて別居している場合には、着々と監護実績を積み重ねられていきますので、夫側は早めに専門家に相談をした方がいいかもしれません。

次に、裁判所は今までどちらの親が主に子供の面倒を見ていたかを重視します。

今まで面倒をみてくれた親のもとで生活するのが子供にとっても良いことであると考えるからです。

妻が不倫をしていても、育児はしっかりやっていたという場合には、妻が有利になるのはこのためです。

家庭裁判所の調査官が調査を行いますが、両親に調査することはもちろんのこと、小学校や保育園にも調査をするなど、かなり具体的に調査を行います。

子供のおむつを替えたのは誰か、離乳食を作っていたのは誰か…等々。

妻が専業主婦だったり、仕事をしていても育休を取ったりして主に子供の世話をしていた場合は、どうしても夫が不利になってしまうでしょう。

では、男性が本気で親権を獲得したい場合にはいったいどうすればよいのでしょうか。

4 夫が本気で親権取得するために

夫が親権を取得するためには、次のような対策をとることをおすすめします。

①母親の問題行動を洗い出し、証拠をつかみましょう。

不倫の証拠だけではなく、育児放棄やDV、モラハラ、アルコール依存症など育児に支障があると考えられるすべての行動に関する証拠です。問題行動を立証できるのは、画像や録音、メール、LINE、日記、メモなどの客観的な証拠です。ただし、相手の携帯を見るなどの行為はプライバシーの侵害となる場合があるため、注意する必要があります。

②積極的に子供の面倒をみましょう。

母親以上に積極的に育児に参加することが重要です。子供をお風呂に入れたり、食事の世話をしたり、保育園の送り迎えをしたり…。身の回りの世話を積極的に行い、できれば証拠に残しておきましょう。担任との連絡ノートを記載したり、毎日のスケジュールを記録するとよいでしょう。写真を貼り付けて視覚化するのもおすすめです。

③子供の親権を取った場合の生活環境を整えましょう。

仕事をテレワークにすることも有効ですが、現実問題として難しい場合は監護補助者を準備しておいてください。監護補助者とは、子供の世話を一緒にしてくれる協力者のことです。近くに住んでいる祖父母や親族、親しい知人などを探しておきましょう。前提として、子供と住む場所を決めることも大切です。子供の学区などにも気を配る必要があります。

5 おわりに

日本において、たとえ母親が不倫をした場合でも、それだけでは父親が親権を取得するのはまだまだ難しいと言えます。

ですが、実際に親権を獲得されたケースを見ていると、いくつかの共通点があることがわかります。

あくまで私の経験上ですが、ご紹介しましょう。

まず、親権を獲得できた方は早めに弁護士などの専門家に相談し、方針を決めておられます。やみくもに動いて、子供の連れ去りなどと認定されることは絶対に避ける必要があります。

次に、親権獲得まであきらめないという強い気持ちを持っておられます。

子供の面倒を積極的に見たと言っても、短期間では裁判所に評価されません。少なくとも半年~1年程度続ける必要があります。ドラマでも描かれていましたが、かなりの忍耐力が必要となってきます。

そして、これが一番重要なのですが、子供にとって何が最適かを常に考えておられることです。仮に子供にとって母親と一緒に暮らすことがベストだと判断すれば、自分の気持ちだけを優先させず、母親に任せるという謙虚な気持ちを持っている方は、その姿勢が裁判所や相手方にも伝わり、意外にもスムーズに行くことがあります。

親権獲得を夫婦の争いの手段としたり、交渉材料とするのは絶対にあってはならないことです。

親権はあくまで子供の利益を第一に考えるという原則を忘れないようにしていただければと思います。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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