パリSGの”514億円コンビ”...ネイマールとエンバペが目指す欧州制覇
欧州王者が、彼らの目の前に立ちはだかった。
今季のチャンピオンズリーグ準々決勝で、パリ・サンジェルマンはバイエルン・ミュンヘンと対戦した。ホームのファーストレグを3-2、アウェーセカンドレグを0-1として、アウェーゴール差で上回ったパリSGが4強入りに名乗りを挙げている。
■指揮官の言葉
「我々が優勝候補だとは思わない。我々はバルセロナを破り、バイエルンを倒した。いずれも勝利にふさわしかった。だがチャンピオンズリーグのセミファイナルに進出するようなチームはすべて優勝する可能性を有している」とはバイエルンを下した後のマウリシオ・ポチェッティーノ監督の弁だ。
「バイエルンとの2試合で、多くのチャンスをつくったのは我々の方だったと思う。ファーストレグでは彼らの方が少し良かったが、決定力を欠いていた。私は準々決勝の2試合を楽しめた。バイエルンは世界最高のチームだ。今夜は我々がバイエルンを上回り、ラウンド突破に値した」
パリSGは、一度もチャンピオンズリーグで優勝したことがない。つまり、このクラブにとって、ビッグイヤーの獲得は悲願なのだ。
そのパリSGを牽引する2人の選手がいる。キリアン・エンバペとネイマールである。
今季、ネイマールは公式戦22試合出場(出場時間1626分)で13得点8アシストを記録。一方、エンバペは40試合(出場時間3114分)で33得点10アシストを記録している。
■強力なアタッカー
ネイマールとエンバペはバイエルン戦でも躍動した。【4-2-3-1】の1トップにエンバペが、トップ下にネイマールが入った。エンバペが得点で、ネイマールがアシストで勝利に貢献した。
ファーストレグでは、パリSGとバイエルンはポゼッション率(36%/64%)、パス本数(240本/456本)、デュエル勝数(41回/52回)という数字を残している。バイエルンには負傷のロベルト・レヴァンドフスキが不在だった。決定力という面ではそれが響いた。
セカンドレグにおいてもパリSGとバイエルンのポゼッション率(45%/55%)、パス本数(325本/406本)はバイエルンが上回った。だがデュエル勝数(66回/56回)ではパリSGが優っている。また、裏を返せば、ポゼッションは相手に譲りカウンターでエンバペとネイマールを生かす形が具現化したと言える。
■エンバペの円熟味
22歳のエンバペだが、すでにベテラン感を漂わせてプレーしている。彼は17歳282日でチャンピオンズリーグでデビューしており、そこから一気にスター街道を駆け抜けた。
19歳でフランス代表の10番を背負い2018年のロシア・ワールドカップに臨んだ。結果は優勝だった。当時、フランス代表のディディエ・デシャン監督は「エンバペは非常に賢い。他人の話をよく聴く。状況が良い時も悪い時もそれをうまくマネジメントする術を心得ている」と称賛していた。
他人の話をよく聴く。それがデシャン監督のエンバペ評だ。
エンバペは決して簡単な幼少時代を過ごしていない。彼のルーツはアフリカにある。カメルーン出身の父親とアルジェリア出身の母親を持ち、移民が多く住むパリ郊外の街で生まれ育った。父親はサッカーの世界で指導者として活動していた。母親はプロのハンドボールの選手だった。そういったDNAを有しているエンバペがプロの選手になるのは必然だったのかも知れない。
2017年夏には、移籍金1億8000万ユーロ(約230億円)でモナコからパリSGに移籍した。ネイマール(契約解除金2億2200万ユーロ/約284億円)に次いで、史上2番目の額で移籍が決まった。それでも、エンバペが自身のルーツを忘れることはなかった。彼は地域の病院や小学校を支援していた。
■ネイマールとの共演
2017-18シーズン以降、パリSGでのネイマールとエンバペの共演に注目が集まった。
エゴとエゴのぶつかり合い。周囲をそれを不安視していた。だが彼らはピッチ内外で良好な関係を築いた。「僕たちが互いを嫉妬することはない。僕は彼のゴールを願ってパスをするし、彼も同じだ」とネイマールが語っている。
「僕とエンバペの関係は、僕と(リオネル・)メッシのものと似ている。ピッチ内で、ピッチ外で、考え得る限り最高の関係にある。僕は彼を『ゴールデンボーイ』と呼んでいるんだ。彼には特別な愛情を抱いている。エンバペは歴史に名を残す選手になるだろう。僕はそれを助けたいと思っている」
■欧州制覇へ
ネイマールとエンバペの”4億ユーロ(約514億円)コンビ”は相互理解を深めてきた。
だがフットボールはチームスポーツだ。個の力だけでは勝てない。
「優位に立つのは常に王者の側だ。バイエルンは現在、世界最高のチームである。彼らは6個のタイトルを獲得した。それをリスペクトしなければならない。我々は挑戦者だ。(ラウンド16の)バルセロナ戦とは異なる。我々は違う姿勢で臨まなけれならない。守るだけではなく、ボールを保持して攻めなければならない」
ポチェッティーノ監督がセカンドレグの前に述べたように、今季のチャンピオンズリーグにおいてパリSGのポゼッション率(49%)は決して高くない。パス本数4899本、パス成功本数4180本、パス成功率85%というのも特筆すべき数字ではない。
無論、カウンターフットボールに傾倒するのであれば、いいだろう。だが、これだけの選手がいて、それが許容されるとは思えない。パリSGが欧州の頂に立つためには、まだまだ改善の余地があるだろう。ネイマールとエンバペに頼ったチーム作りでは、限界が見えてくる。本当の挑戦は、今から始まる。