Yahoo!ニュース

ローマで雪化粧「東の怪物」襲来で、欧州異常低温 

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
雪化粧したローマの様子(26日)(写真:ロイター/アフロ)

さしずめ、ヨーロッパ版「冬将軍」といったところでしょうか。今「東の怪物」と名のついた大寒波がヨーロッパに襲来し、ガソリン価格が急騰するなど、人々の生活に影響を及ぼしています。

「東の怪物」とは

25日(日)ロシア中部で最低気温が氷点下49.7℃まで下がり、ローマでは10センチの雪が降って6年ぶりに雪化粧に包まれました。またイギリスではガソリンの卸価格が今月はじめに比べ21%も高くなり、寒波の影響はヨーロッパ広範にわたっています。

この寒気は東風にのってシベリアから流れてくるため「東の怪物(the Beast from the East)」と別名がつけられています。

「成層圏の突然昇温」

通常ヨーロッパでは西風(偏西風)が吹くことが多いのに、一体今はなぜ東風なのでしょうか。

イギリス気象局の実況天気図に筆者加筆
イギリス気象局の実況天気図に筆者加筆

それは北欧に中心を持つ大きな高気圧が張り出しているためです。この高気圧のふちを、時計回りの風(東風)が流れているのです。

この高気圧が発達している背景には、空高いところ(成層圏)で起きた急激な気温上昇があるようです。これは「成層圏の突然昇温」と呼ばれ、北極付近の上空の気温が数日で数十℃も上昇する現象です。これが起きると、下層(対流圏)の高気圧の勢力が強まり、風向が一時的に逆転して、ヨーロッパで低温状態になることがあります。

今後の予想

参考)世界気象機関
参考)世界気象機関

左の表は各都市の最低気温の予想です。モスクワでは平年のおよそ15℃、ワルシャワでも約10℃以上も低い気温が予想されていることがわかります。

その後、ヨーロッパ西部では週後半に寒さが一段落するものの、東部や中部では来週にかけ厳しい寒さが続きそうです。

暖かい北極

北極付近でもおかしなことが起きています。

ヨーロッパはこんなに寒いのにもかかわらず、北極域には暖かな空気が流入し、平年よりも20℃ほど高くなっている場所もあります。

例えばグリーンランドの最北に位置するモリスジェサップ岬では先週、24時間以上にわたって気温が0℃以上の状態が続きました。オランダの気象機関によると、2月に同じことが観測されたのは、観測史上いまだかつて2011年と2017年の2回しかないとのことですから、いまグリーンランドが異常に暖かくなっていることがわかります。

さらに今年に入ってからの北極域(北緯80度以北)の気温は、例年と比べ約6℃も高いのだそうです。今年1月の北極海の海氷面積の平均は、史上最小となりました。

なにやらこの冬、地球全体で寒暖のアンバランスな状態が起きているようです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

森さやかの最近の記事