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なぜ食後は眠くなるのか 医師の視点

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
お昼ご飯のあと、こんな風に寝たいですよね・・・(写真:アフロ)

食事をした後、なぜ眠くなるのか----

この疑問は筆者にとって長年の疑問でした。幼少期、母から眠くなる理由として「ご飯を食べると消化のために血が脳みそから胃腸に流れて行ってしまうから、眠くなるんだよ」と教わりました。本当かな?と思っていましたが、医学を学び消化器(胃腸のことです)の専門の医者となり、半分は正解だったなと思っています。

なぜ食後は眠くなるのか

食事を食べると、なぜ眠くなるのか。これにはこんなメカニズムが働いています。

まずある人が食事を取ると、食べ物は口のなかでもぐもぐと噛み潰され唾液と混ざります。それをごくんと飲み込むと、食道という細い通り道を通って胃にどさっと入ります。胃は何リットルも入る伸縮可能な袋であると同時に、食べ物を消化するための様々な物質が出される消化センターでもあり、食べ物と消化液がよく混ぜ合わされます。

その時に、実はその人の身体は「リラックスモード」になっているのです。人間の身体というものは「緊張モード」か「リラックスモード」のどちらかになるように出来ていて、1日のうちに絶えずそれは変化しています。例えば誰かとケンカをしている時には「緊張モード」になりますから、お腹が空いたりしません。そして食事という行為で全身がリラックスモードになると、胃腸だけがリラックスモードというわけには行きません。全身の血管や内臓に張り巡らされた神経全てがリラックスモードに傾きます。そしてその一つの表れとして「眠気」が出てくるというわけです。それ以外にもおしっこがしたくなったり、血圧が少し下がったり、お腹がぐるぐる鳴ったりします(専門用語では「緊張モード」=交感神経優位、「リラックスモード」=副交感神経優位といいます)。すると胃腸への血の巡りも良くなりますから、筆者が母から聞いた説明は半分は合っていたということになります。

ですから、食事をとった後に眠くなるのは、人間のもともとの仕組みでありどうしようもないということです。とはいえ、食後の眠気はなんとかならないか・・・という方のために。

医師がすすめる眠気覚まし方法

筆者の独断で、いくつかのおすすめの眠気覚ましの方法をご紹介しましょう。

1、あくびをする

あくびは眠い時に出るものですが、眠気を飛ばす作用があります。下あごを大きく開けることで、顎の筋肉を伸ばし、それが神経の刺激として脳みそに伝わり眠気を飛ばすという説があるのです(専門的には、咬筋の進展→下顎神経→三叉神経第3枝→三叉神経節という逆行性の刺激)。あまり人前であくびをするのは失礼ですが、こっそりしてみましょう。同じ顎を使うという理由でガムを噛むのも効果的です。

2、水で顔を洗う

水で顔を洗うのは「リラックスモード」から「緊張モード」に変えるためのスイッチになりますので有効です。

3、仮眠を取る

逆の発想ですが、どうしても眠い時には15分ほど眠ると効果的です。長時間の昼寝はむしろ眠気を強めてしまいますから、短時間でアラームをセットしておくといいでしょう。ただし食べた直後に眠るのは吐いてしまう危険もありおすすめしません。

4、カフェインを取る

コーヒーやカフェインの錠剤などがありますが、基本的にこれはおすすめしません。カフェイン中毒で昨年死亡者が出た事は大きな話題になりました。

それでも眠い人へ

一番大切なことは、「きちんと睡眠時間が確保出来ているか」ということです。成人であれば5、6時間は最低でも必要ですし、必要な睡眠時間には個人差があります。筆者の場合だと最低7時間は寝ないと日中の活動の質が下がります。同じ人のなかでも短く寝ていたと思ったら長く寝なければダメになるということもあります。

次には、「睡眠中は深く眠れているか」という問題があります。暗い静かな環境で邪魔されずに眠れているでしょうか?時間だけでなくこれも大切です。

そして、病気でないことも確認せねばなりません。睡眠剤を使っている人は「睡眠剤の効果が残っている」ということもありえますし、眠くて元気が無くなる病気もあります。太っている人は「睡眠時無呼吸症候群」が心配ですし、少し珍しいものですが「ナルコレプシー」も気になります。ナルコレプシーは日本人の600人に1人くらい、思春期に発症する疾患です。きちんと時間と質が確保された睡眠をとっているのに日中の眠気がひどい時には、気になる場合は内科または精神科の受診をお勧めします。しかしあくまで眠気に対しては「きちんと寝る」ことが最も大切であることを強調しておきます。

※ナルコレプシーについて

引用します。

ナルコレプシーの症候学的な基本的特徴は三つある。第一に耐え難い眠気あるいは居眠り発作が反復する状態が三ヵ月以上慢性的に持続していることである。思春期に多く発症するにもかかわらず確定診断まで数年要することが多く、患者の QOL は多大に障害される。第二には、強い情動的な刺激が加わった際に、がくんと力が抜ける発作=情動脱力発作が出現することである。第三には、眠りから目覚め、あるいは目覚めから眠りの変わり目にレム睡眠が先行して繰り返し出現することである。

出典:ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン

(参考)

日本睡眠学会

ナルコレプシー診断基準

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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