10.19北朝鮮新型SLBMは1発のみ発射である根拠
10月19日に北朝鮮が発射した新型SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)について、韓国軍は1発の発射を観測、日本自衛隊は2発の発射を観測したと発表。水平距離600km・最大高度50~60kmという飛行性能の推定は一致したものの、発射数が食い違っています。翌日の北朝鮮の正式発表では数の記載はありませんでした。
しかし北朝鮮が公表した潜水艦の写真から、1発のみ発射である可能性が濃厚です。この潜水艦はSLBM発射試験用潜水艦で、発射筒が1本分しかないからです。
SLBM発射試験用潜水艦「8.24英雄艦(8.24영웅함)」
「8.24英雄艦」は名称不明のころにアメリカ軍と韓国軍がゴレ級(鯨級)と命名し、この潜水艦を初めて発見した民間研究者は発見された地名からシンポ級(新浦級)と呼んでいた北朝鮮の試験潜水艦です。今回初めて北朝鮮から正式名称が公表されました。
- 鯨(고래)、Gorae、ゴレ。米韓軍のコードネーム。
- 新浦(신포)、Sinpo、シンポ。発見された地名から。
ゴレ級(シンポ級)潜水艦はセイル(潜水艦の艦橋)の部分から船体までSLBM発射筒を収納する方式です。実戦用ではなく試験用で、2016年8月24日発射・翌日公開の映像から、発射筒は1本のみと推定されています。
セイルの上にSLBM発射筒の蓋が開いている様子が見えます。発射筒の横には2列のベント穴が見えます。発射筒を2本搭載するスペースは無いように思えます。
「8.24英雄艦」は試験潜水艦であり実戦配備用ではないので、新型SLBMが小型化されたといっても無理に2発搭載改修する理由が無く、改造の痕跡も見当たりません。スペース的にも従来の北極星SLBM発射筒1本分に新型SLBM発射筒2本が入る余地は無さそうです。
以上の点から、そもそも潜水艦に1発しか入らないので発射されたのも1発であると推定されます。日本自衛隊による2発を確認したという発表は観測結果の誤認でしょう。
「8.24英雄艦」は写真に出しただけで実際には別の新型潜水艦で発射された・・・という可能性はほぼありません。北朝鮮側にそんなことをする理由が無いからです。実はもう1隻居たという可能性も低いでしょう。
あるいは潜水艦ではなくSLBM搭載の沈んだ試験台船を用意して2発を発射・・・こちらの可能性もほぼありません。1発しか搭載できない潜水艦から発射したと主張しているのに2発を発射したら、北朝鮮がメリットも無く自ら怪しまれるようなことをしたとなりますが、普通そんなことはしません。
ミサイル観測で初報を間違えてしまうことはよくあることで、過去に韓国軍も2019年7月25日に北朝鮮が発射したイスカンデル型短距離弾道ミサイルを飛距離680kmと推定し発表した翌日に、飛距離600kmだったと観測結果を訂正したことがあります。
日本自衛隊も北朝鮮の新型SLBM2発発射を訂正し、1発だったと発表し直すべきでしょう。韓国軍と情報を共有する日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)もあるのですから。