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あるのか「6月解散7月総選挙」。あったとしても、なにも改革されず、国民生活はさらに困窮する!

山田順作家、ジャーナリスト
首相はサプライズが大好き(写真:つのだよしお/アフロ)

■超楽観、超鈍感の首相だけにやりかねない

 自民党は先の衆院3補欠選挙で不戦敗を含めて全敗したため、解散・総選挙などできようがないと言われている。実際、選挙後に岸田文雄首相は、「まったく考えていない」と記者団に語っている。

 しかし、超楽観、超鈍感、サプライズ大好きの首相だから、周囲が止めても、やりかねないという見方がある。

 先の訪米で、バイデン大統領から国賓という厚遇を受けて上機嫌になり、さらに、連邦議会でのスピーチが好評だったことで舞い上がっているとも言われている。6月23日に、今国会は会期を終える。その直前に野党側が内閣不信任案を出せば、それを契機にするというのだ。

 あるいは、 6月13〜15日のイタリアG7サミット後に、「外交の岸田」としての成果を強調して“サプライズ解散”という説もある。

 もしそうとなると、「6月25日公示、7月7日投開票」という案が有力だ。

■「自公過半数割れ」で有力議員も落選必至

 すでに、多くのメディア、各政党は、総選挙になった場合の票読みのシミュレーションを始めている。それによると、どの調査も「自公過半数割れ」で、岸田政権は崩壊することになっている。

 政局報道は政治記事のメインフィールドだが、多くの政局報道が「自民大幅減、立民大幅増」とし、自民の有力議員の落選確実を伝えている。

 たとえば、東京では7区の丸川珠代・元五輪相、24区の萩生田光一・前政調会長。丸川氏は立民候補に大差をつけられるほど人気がなく、萩生田氏は、「党役職停止1年」の処分で済んだため党の公認は得られても、裏ガネ問題に加え旧統一教会問題のダメージは大き過ぎるとされる。「党員資格停止1年」となった11区の下村博文・元文科相は、公認なしの無所属出馬になるので、落選必至とされる。

 神奈川では18区の山際大志郎・元経済再生担当相が、旧統一教会との蜜月ぶりと“しらばっくれ会見”の影響で落選確実。13区から20区に鞍替えする甘利明・元幹事長は、前回でさえ立民の若手に敗けているので圏外と見られている。

 このほか、福島2区の岸田派の事務総長も務めた重鎮の根本匠議員、北海道3区の元スピードスケート選手の堀井学議員、埼玉1区の若手で元財務官僚の村井英樹議員などの名前が挙がっている。愛知7区の鈴木淳司・元総務相も落選必至。昨年の大臣退任会見で「裏ガネは文化」と言い放ったのが致命傷となっている。

■立民中心の「非自公リベラル政権」の可能性

 では、予測どおり、自公過半数割れとなった場合、岸田退陣はもちろんだが、その後の政権はどうなるのだろうか?

 いくつかのシナリオが考えられるが、有力なのは次の二つだ。

(1)与野党間での政権交代が起こり、立民を中心に野党が結束して「非自公リベラル政権」ができる。

(2)自公が維新を抱き込んで、自公維新による「保守政権」が継続する。

 このうち、可能性が高いのは(2)のほうではなかろうか。

 というのは、相容れないとされる立民と共産が協力できたとしても、その連立政権に維新、国民の参加は難しいからだ。自民党を敗退させた有権者は(1)を望むと思うが、それは裏切られるだろう。

■維新は自民を補完するポピュリズム政党

 日本維新の会の馬場伸幸代表は、常々、立憲民主党の議会対応を批判し、「立憲を叩き潰す必要がある」と言ってきた。彼は、能登地震のときに「万博があるから(被災者たちも)頑張ってほしい」と言ってみたりする、一部の自民党議員と同じ土建体質の人間である。

 そのため、維新はいま離党者が続出している。

 大阪万博に対する無責任ぶりをみても、維新は自民の補完勢力と言ってよく、ポピュリズムによる権力奪取志向だけの政党だ(と言っても、これは立民を含めてすべての政党に言えるだろう)。

 となると、たとえ「自公過半数割れ」になっても、立民主導の連立政権はできない。多くのメディアは、いま、裏ガネ問題を叩き、歴史的円安をもたらした経済失政を批判することで、次回選挙で自公が下野し、日本の政治が改革されるという方向で報道を繰り返しているが、改革は実現しないことになる。

■本当の問題は、投票率の異常な低さ

 それでも、もし「非自公リベラル政権」が誕生した場合は、日本は改革されるのだろうか? 政治が浄化され、経済・金融政策が転換されて、国民生活が少しはよくなるのだろうか?

 これに対する私の見方は、ノーである。

 なぜなら、多くの国民は政治になにも期待していない。この世の中は、なるようにしかならないと思っているからだ。

 このことは、先の衆院補欠選挙の投票率の異常な低さが示している。以下が、その投票率である。

 東京15区=40.70%(2017年の55.59%を大幅に下回る)

 島根1区=54.62%(2014年の57.94%をやや下回る)

 長崎3区=35.45%(2014年の51.58%を大幅に下回る)

 東京15区は候補者乱立で、もっとも注目されたというのに40.7%の人間しか投票していない。長崎3区にいたっては自民党から候補者が出なかったこともあるだろうが、過去最低の前回を16ポイントも下回り、35.45%の人しか投票していない。

 有権者は、まったくの無関心を除けば、「推し」の候補者を持てないでいるのだ。よく、街頭インタビューで「入れたい人がいない」という声を多く聞くが、それが、この投票率の低さに結びついている。

 「入れたい人」=「日本を改革できる人」とすれば、それがいないのだから、次の総選挙でなにが起ころうと、日本は変わらないのではないか。

■自民党の社会主義路線を踏襲する

 いずれにせよ、すでに日本は詰んでいる。

 経済・金融政策においては、どんな手を打っても、衰退は免れない。

 これまで自民党がやってきたのは、国債増発による借金財政で衰退をごまかすダラダラ路線である。「補助」「援助」「支援」「優遇措置」によるバラマキを“政策”と称して続けてきただけである。

 アベノミクスは、その資金を捻出するため、日銀に国債を直接引き受けさす事実上の「財政ファイナンス」にまで踏み込んだ。保守と言いながら、これは明らかな社会主義路線である。市場経済も資本主義も機能しなくさせてしまった。

 この自民党の社会主義路線を、もし立民中心の野党が政権を取ったとしても、踏襲するに違いない。彼らは、自民以上にバラマキが好きで、バラマキによる国民救済に注力するからだ。リベラルが「小さな政府」を目指すわけがない。

 国民を本当に救うには、財政ファイナンスをやめ、利上げをして、これ以上の国債発行をやめることだ。そうしなければ、円安もスタグフレーションも止まらない。しかし、そうすると、企業倒産、住宅ローン破綻、家庭崩壊が続出する。この痛みを享受すれば、その後に、わずかだが日本の復活が期待できるが、リベラルにこれを実行する勇気があるとは思えない。

■アベノミクスの大失敗を総括できるのか

 新政権がどちらになろうと、まずやらなければならないのは、これまでの日本の経済政策、とくにアベノミクスの歴史的大失敗の検証だろう。これをしなくては、次に進めるわけがない。

 私は、アベノミクスが始まった当初から、これを「間違っている」と批判してきた。異次元緩和という金融政策はカンフル剤で長くやってはいけない。それだけで経済成長など望めない。2本目、3本目の矢を真剣にやらなければ、日本はさらに衰退すると警告してきた。

 しかし、保守メディアと右派言論人、エコノミストの多くが、アベノミクスを擁護し、「日本経済は復活する」などと戯言を並べてきた。

 その結果が、いまの惨状だ。

■「戦犯」を断罪し、政府、官僚組織から追放せよ

 かつて私は、この『Yahoo!ニュース』のエキスパート欄に、『誰も書かない「景気を回復させてはならない」というアベノミクスの“裏目的”』(2014年11月)というコラムを寄稿した。

 アベノミクスというのは、単なる政府の延命策で、その本当の目的は金利を抑え込んで赤字国債の発行を続けることに過ぎないという内容だ。したがって、景気をよくしてインフレにし、金利を上げてはいけないのである。

 つまり、アベノミクスは「財政ファイナンス」そのものだから、最終的に破綻する。しかし、破綻してもインフレが止まらなくなるだけだから、債務は圧縮されて政府は助かる。しかし、国民のほうは助からない。

 となれば、これを推進した「戦犯」を断罪し、政府、官僚組織から追放しない限り、次の政権は改革などできない。単に裏ガネによる政治腐敗を撲滅したところで、日本はよくならない。

 失敗確実の「大阪万博」は開催され、まったく無意味のリニア新幹線の工事は続き、日本防衛に役立たない兵器に無駄な税金が際限なく投入されるだろう。

 日本は、デジタルエコノミーにも、温暖化経済にも大きく遅れ続けるだろう。

■混乱に陥ったときにポピュリズムが台頭する

 いずれにしてもわが国は、7月からの第二四半期以降に、間違いなく本格的なスタグフレーションに突入する。それはこれまでの比ではない。現在の円安150円〜160円の影響が本格的に物価に波及するのは、3、4カ月後だからだ。そして、秋には値上げラッシュ、円安倒産ラッシュが訪れる。

 これは金融緩和を手仕舞いしなくとも、確実にやってくる未来である。また、手仕舞いしたとしても、前記したように、ひどい「痛み」がやってくる。

 国家が経済混乱、貧困化に陥ったとき、ポピュリズムが台頭する。自民にしても立民、維新にしても、私に言わせれば、その正体は大衆迎合のポピュリズム政党である。けっして、国民に対して「痛みを受け入れてほしい。そうしなければ日本の未来はない」などとは言わない。

 どんなかたちになろうと、新政権は国民を救うと称して、さらなるバラマキを行うだろう。財政赤字を垂れ流している政府に財源などないから、さらなる国債発行でバラマキをまかなうしかない。

 そんなことを続ければどうなるか? 日本の壮大な社会実験の結末が迫っている。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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