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ハワイ・キラウエア火山 静かなる脅威「ヴォッグ」とは

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
ハワイ島キラウエア火山から立ち上る噴煙(3日撮影)(提供:USGS/ロイター/アフロ)

今月3日から噴火を続けているアメリカ・ハワイ島のキラウエア火山。その溶岩は住宅地を飲み込み、これまでのところ35棟の建物が焼失したと伝えられています。噴火活動は今後数か月間続くとみられており、被害の拡大が心配されます。

地面を這うように、溶岩が住宅地に忍び寄るさまは、まるで生き物のようです。溶岩の色は温度の指標でもあって、赤ければ600~800℃、オレンジ色ならば800~1000℃、そして黄色ければ1000~1200℃といわれています。いっぱんに、アスファルトが溶けるのが150℃、金や銀が溶けるのが1000℃です。

見えない脅威「ヴォッグ」

2009年ヴォッグに包まれたハワイ島の様子(NASA)
2009年ヴォッグに包まれたハワイ島の様子(NASA)

溶岩のほかに噴火に伴って脅威となるのが、「ヴォッグ(Vog)」です。

ヴォッグとは、火山を意味するボルケーノ(Volcano)とスモッグ(Smog)が合わさってできた言葉です。噴火の際に発生する二酸化硫黄などが、酸素や太陽光などに触れて化学反応を起こし、人体に有害な微粒子となって空気中を漂います。

ヴォッグは風に乗って広がるため、遠く離れた場所にも影響をもたらすのです。

ヴォッグの健康被害

ヴォッグは目、鼻、喉の痛み、頭痛、息切れ、喘息や気管支炎などを発症させることがあります。ヴォッグ発生時には呼吸器疾患の患者が通常の6倍、頭痛やのどの痛みを訴える人が3倍も増えたという報告もあるほどです。

ヴォッグの拡散

アメリカ合衆国環境保護庁のサイトの画像に筆者加筆
アメリカ合衆国環境保護庁のサイトの画像に筆者加筆

ハワイには北東風が卓越して吹いています。これは「北東貿易風」と呼ばれる風です。このため風下の一部の地域ではヴォッグの影響を著しく受けますが、キラウエア火山がハワイ島の南東部に位置していることから、ほとんどの噴煙は海上に流されていきます。

問題は、風が弱まったり、向きが変わったりした場合です。

もし風向きが南寄りに変われば、ハワイ島の北に位置するオアフ島やマウイ島などにもヴォッグが広がることになります。特に呼吸器疾患を持つ人は外出を控えるなど、注意が必要となります。

*参考リンク*

ヴォッグの拡散予測はこちら(ハワイ大学)

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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