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「ゴルフに身長は関係ない」“150センチ”の最年少年間女王・山下美夢有インタビュー 強さの源と素顔

金明昱スポーツライター
今季5勝で年間女王となった21歳の山下美夢有(写真・倉増崇史)

 国内女子ゴルフツアーの人気は衰えを知らない。優勝者の顔ぶれが、新人から中堅、ベテランまで様々であることも、その一因だろう。

 次々と強い若手が登場するなか、2022年シーズンで、21歳103日の“史上最年少年間女王”に輝いたのが山下美夢有(みゆう)だ。コロナ禍で2シーズンが統合された昨季(2020-21)では、ツアー初参戦ながら1勝を挙げ、賞金も1億円超え(ランキング13位)など、そのポテンシャルの高さを見せつけていた。

 そして迎えた今季、国内メジャー2勝を含む5勝で年間女王を獲得。驚いたことに、“実力のバロメーター”と言われる年間平均ストローク60台(69.9714)も達成している。これは、2019年に69.9399を記録した申ジエ以来2人目で、日本人選手としては初となる数字だ。年間獲得賞金も2億3502万967円となり、2015年のイ・ボミの記録(2億3049万7057円)を上回った。

 150センチと小柄だが“身長や飛距離のハンディ”をものともせず、精度の高いショットをリズムよく放ち、磨きこんだ巧みな技術で魅了する。プレーは冷静で緻密だが、攻めの姿勢は崩さず大胆。強さの源はどこにあるのか。ニューヒロインの素顔に迫った。

「記録や数字はそこまで意識せず」

――今季は5勝して年間女王、そして賞金女王にもなりました。振り返ってみてどんなシーズンでしたか?

まさかこんなシーズンになるとは、自分でも本当に驚いています。記録づくめだったこともそうですが、メジャーで勝つこと、年間1位になることは目標でもあったので、達成できたのは本当にうれしいです。

――自分が達成した記録についてのすごさは実感していますか?

記録や数字については、そこまで意識しながらプレーしているわけではないので、実感がなかったのが正直なところです。実際には「すごいことやってのけた」んだと思いますが、ただ、平均ストローク60台に関しては、最終戦の最終日だけ意識しました。いくつスコア出せば、60台になるのかというのがあったので、少し緊張はしていました。

――今季は4月のKKT杯バンテリンレディスから3試合連続予選落ちのあと、メジャーのワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップで優勝しました。これには驚きました。

連続予選落ちのあとの優勝なので、かなりインパクトは大きかったですよね(笑)。あの週に父(勝臣さん)から色々とアドバイスをもらったのですが、そこから自信を持って挑めるようになったんです。

――具体的にはどんなアドバイスでしたか?

私のスイングのちょっとしたズレです。ショットのリズムがおかしいと気づいて、それを修正したらすごく調子が良くなったんです。

――お父さんのアドバイスには信頼と安心感があるというわけですね。

子どものころからずっと私の指導をしてくれているので、父でありコーチでもあるのですが、見たら何が悪いか、どうすればよくなるのかはすぐ分かるみたいです。アドバイスをもらうたびに結果が出るので、信頼している部分はあります。

――お父さんのサポートぶりはいかがですか?

そもそも(父は)ゴルフはまったく知らなかったのに、私がゴルフを始めてからは熱心に研究をしてくれていて、いつもすごいなと思って見ています。子どものころ、すでに家のテレビは「ゴルフネットワーク」だけ。いつも米男子ツアーの試合が流れていました。海外メジャーになると、ちゃんと夜中に起きて見ているんです。私は寝ているのに(笑)。とにかく私がゴルフに集中できる環境を作ってくれていましたし、弟もプロを目指すと言ってからは、さらに父の熱が入りました。私もそれくらい気合い入れてやらなあかんなって思うようになりますよね。

――お父さんに対して反抗期はなかったですか?

中高生くらいのときは、ゴルフに関してこうしたほうがいいとかで、揉めることもありましたけれど、それも反抗期と言えるレベルではないですね(笑)。

家族と記念写真に収まる山下美夢有。母・有貴さん(左端)、妹・欄さん、父・勝臣さん(右端)(写真:日刊スポーツ/アフロ)
家族と記念写真に収まる山下美夢有。母・有貴さん(左端)、妹・欄さん、父・勝臣さん(右端)(写真:日刊スポーツ/アフロ)

「食事面に気を付け、ルーティンを変えた」

――今季、これだけの結果を残せた要因はどこにあると考えていますか?

やっぱり体づくりと食事面に気を付けたことがすごく大きいです。去年は体重が3~4キロくらい落ちて、コンディションを保つのがものすごく大変でした。特に“食べること”に関してはかなり意識しました。

――シーズン中、主にどんなものを食べていましたか?

肉系が多かったですね。例えばステーキとかは500グラムはペロリと食べちゃいます。美味しいフィレ肉のステーキが好き(笑)。そうやって意識的にたくさん食べて、体重を落とさないようにしたことが、ゴルフに生かされました。

――それでショットが安定した?

その通りです。ショットのブレがなくなり、下半身の安定感も出てスコアがまとまるようになりました。もう一つは、試合に入る前のルーティンを変えたことも成績につながったと思います。

――具体的にはどんなルーティンに変えたのでしょうか?

去年までは3~4日間の試合の最終日、日曜日に試合が終わったら、その日中に移動して、翌月曜日には試合会場で練習とラウンドをし、火曜日は休むというルーティンを続けていたんです。今考えたらかなりハードですよね(笑)。実際、ほとんどの選手は日曜日の翌日は休みます。でも、私はダラダラするのが嫌で…。お父さんにも月曜日はクラブを持つなって言われていたのに聞かなかった。それを今年から、月曜日に一旦、家に帰ってリフレッシュするようにしたんです。

――気持ちの切り替えがうまくいったということですか?

家で気分転換して、リラックスできる環境に身を置くことでゴルフがうまくいくようになったんです。たとえ半日だけでも自分の時間を作るのはすごく大事なことだと思いました。家で家族といろんな話をして、美味しいご飯を食べて、明日からがんばろうって気持ちになります。逆に、プロ1年目はかなり無理してやっていたんだなって思います。

ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンの初日に18ホールのツアー最少ストロークの新記録となる「60」をたたき出した(写真:日刊スポーツ/アフロ)
ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンの初日に18ホールのツアー最少ストロークの新記録となる「60」をたたき出した(写真:日刊スポーツ/アフロ)

「ショットの精度とパターを磨いた」

――山下選手といえば150センチの身長がよく話題になります。一般的には身長が高いほうがゴルフに有利と言われますが、そうした見方についてはどう思いますか?

身長は中学2年くらいで止まったので、当時ショックはありました。でも、ゴルフをするのに身長はあまり関係ないと思います。今の若い世代の選手たちも、身長は小さくても、ドライバーが飛ぶ選手は飛びます。もちろん原理的に言えば、手足が長いほうが飛ぶというのは分かります。だからといって、これはもう自分でどうすることもできないので、それなら(成績と)身長は関係ないというのを証明するしかないなって。

――成績向上のために、飛距離以外の強みを磨こうと?

大きな選手に飛距離では勝てないので、そこはショットの精度とパターを磨こうと思って練習に取り組みました。それでも飛距離が少しでもあるのは武器になるので、そこはお父さんとのトレーニングで、体を大きくして下半身を鍛えてパワーを上げるようにしています。

――スイングを変えたいなどの欲は出てこない?

スイングなど基本的なことを変えることはなくて、今まで通りでいこうと考えています。これも性格なのかもしれません。

「性格はかなりせっかち」

――自己分析するとどんな性格ですか?

大阪出身なので、かなりせっかちです(笑)。例えばコンビニで買い物するときも、決めるのはめちゃくちゃ早いです。一緒にいる方もたまにビックリするくらい。

――おっとりしているように見えるのですが、真逆ですね。

よく言われます(笑)。買うのに時間かかっていたり、いろいろと迷ったりしている人を見ると「早く決めてー」って思うこともあります。

――ゴルフのプレーも決断したら早いほうなのでしょうか?

基本的にショットするまでは早いと思います。決断したら迷わず打つタイプ。それはせっかちな性格もあるかもしれませんが、自分でもそこはよく分かっているんです。だから、ミスすると焦りからもっと早くなってしまう傾向があるので、そこはすごく気を付けています。

――自分の気持ちはどのようにコントロールしているのでしょうか?

一度流れが悪くなるとミスが増えるので、少し間を置いて深呼吸して、飲み物を飲んだりしてから打つとか、そうしたことを心掛けるようになりました。ただ、良くも悪くもすべてリズムなので、今年の私はプレーのリズムがいい選手との組み合わせに恵まれていた部分もあるかもしれません。

2022年シーズンも終わりリラックスした雰囲気でインタビューは進んだ(写真・倉増崇史)
2022年シーズンも終わりリラックスした雰囲気でインタビューは進んだ(写真・倉増崇史)

母はムードメーカー、“メンタルコーチ”

――SNSなどへの関心は強いほうですか?

インスタグラムで、ファンの方と交流したり、反応を見たりするのは楽しいです。ただ、そんなにあれこれ投稿するタイプでもなくて…。だからいろんな選手が積極的にやっているのを、みんなすごいなって思って見ています(笑)。YouTubeもあまり見たりはしないんですよ。

――コスメを集めるのが好きだと聞きました。

一度にたくさん買うのではなくて、気に入ったのを見つけたら買うんです。それでかなりコレクションが増えました。ツアー中にも持っていくのですが、買ったもののなかに使っていないもの、どう使えばいいか分からないものもあって(笑)。母には「あんた、そんだけコスメ集めてるけど、1回も使ってへんやん、うそやろそれ」って突っ込まれてます(笑)。

――お母さん(有貴さん)もコテコテの大阪人ですね(笑)。

母はムードメーカーです。ゴルフの応援に来てくれるのですが、ゴルフをまったく知らないので、ストレートにモノが言えるんです。「なんでバーディー取ったあと、次のホールでボギー打つん。しっかりせえよ」みたいに(笑)。普通は気を遣って言えないはずなのに笑っちゃいますよね。暗い雰囲気を一気に明るくしてくれる。だから私のメンタルコーチです。

「下には譲らない」パリ五輪も視野に

――ライバルを挙げるとしたら、同期の西郷真央選手になりますか?

それはみんなに言われます。同期なのでしょうがないですよね。切磋琢磨する選手がいるのはすごく刺激になるし、がんばれる原動力になっています。それに年下の後輩たちがどんどん力をつけているので、そこにも負けないようにしていきたい。まだ下には譲らないという気持ちで戦っていきたいです。上田桃子選手や藤田さいき選手は30代になっても上位争いして活躍されているので、強くて息の長い選手になれるように努力していきたい。

――将来的には米女子ツアー参戦という考えはありますか?

そこはまだ考えてはいません。もちろんスポットで参戦できる試合があれば、全米女子オープンや全英女子オープンなどに出場したい考えはありますが、まずは国内でしっかりと力をつけていきたいです。

――最後に2023年の目標を教えてください。

安定した強さを求めつつ、今年の成績よりも上を目指すこと。年間女王も賞金女王も、平均ストロークも今年を上回るのは難しいことだと思いますが、そこを目指す1年にしていきたいです。1年半後のパリ五輪にも日本代表で出たい気持ちがあるので、そこも意識しながら準備をしていきたいです。

2年連続の年間女王も視野に入れ、来季は自分の記録を超える戦いとなる(写真・倉増崇史)
2年連続の年間女王も視野に入れ、来季は自分の記録を超える戦いとなる(写真・倉増崇史)

■山下美夢有(やました・みゆう)/2001年生まれ、大阪府出身。大阪桐蔭高校ゴルフ部時代に19年全国高校ゴルフ選手権で優勝。同年のトヨタジュニアゴルフワールドカップでは日本代表として団体優勝にも貢献。同年のプロテストに合格し、2020年から国内女子ツアー初参戦。21年「KKT杯バンテリンレディス」で初優勝。22年「ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップ」でメジャー初制覇など年間5勝し、史上最年少となる21歳103日で初の年間女王となる。最終戦のメジャー「ツアーチャンピオンシップリコーカップ」も制し、平均ストローク「69.9714」を達成。年間獲得賞金も2億3502万967円で2015年のイ・ボミ(2億3049万7057円)を超えた。両親、弟、妹の5人家族。加賀電子所属。

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スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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