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「来年度も働けるのか…?」 不安を抱えるスクールカウンセラーの「本音」とは

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
画像はイメージです。(写真:アフロ)

 近年、学校現場では、いじめの深刻化や不登校の問題など、さまざまな困難を抱える子どもが増加している。昨年12月には、文科省の調査で、発達障害の可能性のある小中学生が学級に8.8%との結果も発表されるなど、多様な子どもへの対応に苦慮している教員も少なくないだろう。こうした事態に対応するため、1995年から、全国の学校に臨床心理士などが「スクールカウンセラー」として配置されている。

 その必要性や重要性は年々増している一方で、スクールカウンセラーの置かれた状況は厳しい。ほとんどは非常勤という立場で、来年度も雇用が継続されるのかと不安を抱えながら働いている。そのようななか、臨床心理士や公認心理師の労働条件・環境の改善のために、「心理職ユニオン」が結成された。

 同ユニオンが2021年9~10月に行ったアンケート調査では、多くのスクールカウンセラーが、雇用の不安定さや時間外の無償労働により、働くうえでストレスを抱えていることがわかった(調査結果の詳細はこちら)。同意調査は、ユニオンによる配布回収調査としては異例の回答率であり、現場の「生の声」がリアルに聞こえてくる。それだけ現場のカウンセラーたちは世の中に伝えたいことをため込んでいたということだろう。

 本記事では、このアンケート調査の結果を紹介しながら、子どもたちを支えるケアの「専門職」が、どのような条件のもと日々の業務に取り組んでいるのか、そしてどのような問題を抱えているのかを見ていこう。

増加する校内いじめ・暴力行為

 まず、スクールカウンセラー設置の背景にある、学校現場の問題を簡単に見ておこう。文科省の調査によれば、小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は、61万5,351件であった(2021年度)。グラフにあるように、その数は年々、増加する傾向にある。関連して、小・中・高等学校における暴力行為は7万6,441件発生し、こちらも前年度より増加している。

出所:文部科学省、「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」
出所:文部科学省、「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」

 また、不登校となる子どもの数も、この調査で過去最高を記録し、小・中学校における不登校児童生徒数は24万4,940人であった。新型コロナの影響もあるだろうが、2020年度は19万6,127人であったから、5万人近く増加していることになる。

 いじめや不登校の問題に限らず、人間関係や学習面、さらには親の経済状況や貧困など、さまざまな問題・課題を抱える子ども、そして保護者は多い。これに対応するために学校に設置されているのが、スクールカウンセラーだ。その配置率は各都道府県でばらつきがあるものの、東京都では、2013年から公立の小中高に全校配置が進んでいる。

出所:文部科学省
出所:文部科学省

9割が職場にストレス

 では、そのスクールカウンセラーたちは、どのような労働条件・環境で働いているのだろうか。心理職ユニオンが行った、東京都の公立学校で働くスクールカウンセラーを対象としたアンケート調査の結果を見てみよう(702件の回答、回収率46%)。

 特徴として、回答者の79%が女性であること、非常勤であるために、93%が他の職場と兼業していることが挙げられる。また、「臨床心理士」や「公認心理師」の資格を持った、有資格者である。

 注目すべきは、回答者の87%もが、職場にストレスとなる要因があると回答している点だろう。その背景には、雇用の不安定さやサービス残業がある。職場におけるストレス要因を聞いていくと、「時間外の無償労働」が最も多く(402件)、「雇用の不安定さ」(373件)、「社会保障がないこと」(341件)が続く。また、後述するように、雇用の不安定さと関連して、「教職員・管理職との関係」も目立った(307件)。

学校のブラック化を促進?

 ストレス要因として多く挙げられた時間外労働だが、時間数としてはそれほど長くはない。1回の勤務における残業時間は、「1~2時間未満」が最も多く、52%を占めた。「1時間未満」を含めると、全体の74%に上る。だが、次のような自由記述からは、時間数の問題ではないことがうかがえる(※心理職ユニオンへの取材で、自由記述の回答を閲覧した。本記事で紹介する際には、個人が特定されないように一部文言を変更している)。

教員の空き時間でなければ、児童について話すことができないため、定時に業務を終えることはほぼ不可能になる。

教員の本来の勤務時間を過ぎてから生徒の情報を共有するため、学校のブラック化を促進しているのではないかと感じる。

 基本的に、東京都のスクールカウンセラーの勤務は、1日7時間45分×年38日となっており、週に1日、勤務校に出向くことになる。その限られた勤務時間内に、児童生徒との面談、教員との情報共有・話し合い、必要な児童の観察、記録の作成など複数の業務をこなさなければならない。行くたびに状況が変化していることも少なくない。個人の努力や自己犠牲に大きく依存しているのが現状だろう。

脅かされる雇用

 次に、スクールカウンセラーのストレス要因となっているのが、「雇用の不安定さ」である。会計年度任用職員として、4~3月までの1年ごとの契約となるのだが、なかでも多くのスクールカウンセラーが問題視しているのが、仮に(継続して)採用されることが決まったとしても、どの学校で働くかが決まるのは3月末ということだ。

毎年、1月に採用通知がきて、配置される学校の決定は3月末となる。保護者と面談するなかで、自分が来年度もこの学校にいるかわからず、相談業務に支障が出る。

来年度も継続して働けるかどうかわかるタイミングが遅いため、引き継ぎも満足にできず、丁寧に挨拶もできなかったため、保護者や子どもを傷つけてしまったことがある。

 加えて、配置される学校数が、それまでと比べて減ってしまう場合もありうる。生活するうえでのプランが狂うだけでなく、3月に新年度から別の勤務先を探すことは容易ではなく、このことがスクールカウンセラーの経済面に大きな不安を与えている。

 そして、同じ学校で働けるかどうかの更新の有無は、各学校の校長が決めることになるのだが、事前に評価基準が示されているわけではない。更新されなかった場合も、どこに問題点・改善点があったかのフィードバックはなされない。そのため、おのずと学校側の意向をうかがうようになってしまう

 これでは、スクールカウンセラーは職場で「本音」をいうことができず、いじめの発見や対応を含め、児童のケアに十分力を発揮することはできないだろう。実際に、アンケートでは次のような回答がみられた。

管理職との相性によって次年度の雇用が決まるため、いつも不安を抱えながら働いている。

日常業務のなかで、管理職への忖度を欠かすことができない。

いじめ件数の「改ざん」を求められることも

 この校長や管理職との関係が「忖度」を超え、スクールカウンセラーの専門性を脅かす事態も発生している。

いじめ案件の報告数を、実際よりも3分の1少なくするよう圧力をかけられた。

次年度の更新のことを考えると、管理職の心証を悪くしないために、本当のことが言いづらい。

 これらのケースでは、学校内で起きているいじめ等の重要な問題をそのまま報告するのではなく、過少に報告することが求められている。そうした命令に従うかどうかが、契約更新に関わってくる場合もあるのだ。

 これでは、児童生徒、そして保護者のケアや校内問題への対処という本来の目的が転倒してしまっている。当然、このようなスクールカウンセラーの役割の軽視は、モチベーションの低下にもつながってしまうだろう。

おわりに

 エッセンシャルワークの重要性が指摘されるようになる中で、福祉専門職の圧倒的多数を非正規雇用が担っているのが現実だ。彼らの多くは大学院を修了し、高い専門性を持っているが、これを評価する仕組みが日本には存在しないといってよい。

 不安定雇用の中で彼らの専門性が発揮されなければ、社会サービスの質の劣化を招くことになる。これはケアワーカー個人だけではなく、社会全体の損失だ。特に学校における子供のケアを担う専門職がないがしろにされてしまえば、子供たちの将来に影響を及ぼしてしまう。

 アンケート調査を行った心理職ユニオンでは、調査結果をもとにし要望書を作成し、都教育委員会に提出、団体交渉も行っている。ケアの専門職が自身の専門性を発揮し、学校現場の問題に対処できるよう、同ユニオンの取り組みに注目していきたい。

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*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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