中国「1人っ子政策」撤廃 粉ミルク・紙おむつ株は上昇。それでも1億4千万人の労働力不足は埋められない
コンドーム株は下がる
中国共産党の中央委員会第5回全体会議(5中全会)が29日、次期5カ年計画で「1人っ子政策」を撤廃し、すべての夫婦に第2子の出産を認める「2人っ子政策」を導入する方針を明らかにした。
赤ちゃんが増えることを見込んで、中国で人気の粉ミルクや紙おむつの日本メーカー、森永乳業やユニ・チャームの株価は上昇した。中国人観光客の「爆買い」にも一段と拍車がかかりそうだ。
一方、避妊の回数が減るとの思惑から、コンドーム最大手オカモトの株価は下がった。
現在の中国が建国された1949年から57年にかけ、毛沢東の多産奨励策もあって第1次ベビーブームが訪れる。その後、大飢饉で出生率が落ち込んだが、62年から70年にかけて第2次ベビーブームを迎える。
71年に食糧危機を回避するため計画出産策が打ち出された。79年に「1っ子政策」が導入され、3年後に全面実施される。
第1、2次ベビーブーマーが出産し、81年から90年にかけて第3次ベビーブームが起きる。84年には、夫婦がともに1人っ子の場合は第2子まで認められる「双独2子」が取り入れられ、2014年から夫婦のいずれかが1人っ子なら第2子をもうけられるようになった(「単独2子」)。
対象となった夫婦は1100万組にのぼったが、14年12月時点で申請を行ったのはわずか70万組。日経新聞によると、年間200万人の出産増になるという楽観的な見通しは47万人増にとどまった。このため、完全「2人っ子」政策の導入が不可避の情勢になっていた。
第4次ベビーブームは起きるか
中国当局が「生産年齢人口」とする15~59歳人口は2012年、9億3727万人となり、前年比345万人の減少した。国際通貨基金(IMF)は毎年300万人ずつ減り、30年代前半に中国は1億4千万人の労働力不足に陥ると予測している。
中国は、地方の余剰労働力が枯渇して賃金が上昇し始める「ルイスの転換点」をすでに通過したとされ、生産年齢人口も頭打ちとなって減少に転じている。経済成長を後押しする「人口ボーナス」期が終了し、労働力不足や高齢化による社会保障費の増加など「人口オーナス」への備えが必要になってきた。
中国の人口ピラミッドを見ると、1人っ子政策の影響で次第に中膨れ状態になっている。2人っ子政策で出生率が増えても、生産年齢人口に達するには15~20年を要する。人口政策に即効薬はない。
2人っ子政策の導入時期はまだ明らかにされていないが、かなりインセンティブをつけない限り、13年時点で1.7まで落ち込んだ合計特殊出生率をV字回復させるのは至難の業だ。都市部では労働がきつく、「子供に束縛されるのは嫌だ」というカップルや教育費が高額なため第2子をためらうケースが増えているからだ。
「未富先老」
1人っ子政策によって「1人の子供に財布が6つ」と言われ、子供は「小皇帝」と呼ばれるほど大切にされてきた。しかし、祖父母世代4人、親世代2人、子供世代1人という「4・2・1」の少子高齢化が急激に進行している。
先進国は豊かになってから高齢化を迎えた(「先富後老」)のに対し、1人当たりの国内総生産(GDP)がそれほど高くならないうちに高齢化を迎えた。「未富先老」(アジア成長研究所)とも言うべき状態で、社会保障制度が維持できるかどうかにも大きな疑問符が灯っている。
(おわり)