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「SNS―少女たちの10日間」を保護者・子どもは見るべきか―凄惨すぎる児童ポルノ・性被害の実態

高橋暁子成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト
筆者撮影

「SNS―少女たちの10日間」という映画が公開されている。大人の女優3人が12歳の少女を演じる、SNSの実態を探るチェコのドキュメンタリー映画だ。何と10日間で2458人の男たちが少女等に声をかけてくるのだが、その大半は初めから性的な目的で近づいてくる。

子どもがSNSを通じて性的被害にあう事件は日本でもとても多く、他人事ではない。我々はこの映画に対して、どのように向き合えばいいのだろうか。

【追記:11:26 少々映画のネタバレになる部分があります。この記事を読んだ上で見てもインパクトの強さは変わりませんが、気になる方はご注意ください。】

あまりに身近すぎる子どもの性被害

「胸糞悪い映画だと思う。映画の途中で帰ってしまう人を久しぶりに見た。気持ちが悪くて吐きそうになりながら見た。でも、保護者は見ておいたが方がいいと思う」と、ある小学生の子どもを持つ40代女性は、映画を見た感想を語る。他の視聴した保護者の感想等を紹介する前に、映画のことをもう少し解説しよう。

チェコでは、子どもの60%が親から制限を受けずにインターネットを利用し、そのうち41%が他人から性的な画像を送られてきた経験がある。見知らぬ人とネット上で話す子どものうち、5分の1は直接会うことに抵抗がないという。

映画は、まさにこの実態を明らかにしている。このドキュメンタリーでは、女優3人が12歳という設定でSNSアカウントを用意する。驚くのは、この役に応募してきた23人の女優のうち19人がネット上で性的虐待を受けた経験があると語っていることだ。SNSを通じた子どもの性被害のあまりの身近さに寒気を覚える。

ドキュメンタリー内では、接触してきた男たちは下半身を露出した写真を送ってきたり、裸の写真を送らせようとしたり、会おうと誘ってきたり、性交渉を求めてくる者もいる。裸の写真を送らせた挙げ句、脅して言いなりにさせようとしたり、不特定多数の見る場に公開してしまう者もいる。

このドキュメンタリーでは、初めにルールが決められている。

  1. 自分からは連絡しない
  2. 12歳であることをハッキリ告げる
  3. 誘惑や挑発はしない
  4. 露骨な性的指示は断る
  5. 何度も頼まれた時のみ裸の写真(※偽の合成写真)を送る
  6. こちらから会う約束を持ちかけない
  7. 撮影中は現場にいる精神科医や弁護士などに相談する

つまり、男たちは12歳とわかった上で、性的目的を持って積極的に少女たちに接触してきているのだ。全体に気分が悪くなる内容であり、多くの人が見終わった後に落ち込むことになるだろう。ある映画を視聴した30代男性は、「自分が同じ男であることが嫌になってしまうくらいの衝撃だった」と語る。

10日間で2458人からのアクセスというのは多すぎると感じるかもしれない。しかし筆者が取材したところ、女性とわかるアカウントは、作成から数分で男性からの連絡が殺到することは一般的だ。写真や年齢などを登録しなくても、女性らしい名前というだけで連絡は殺到してくる。筆者も取材で作っただけのアカウントに連絡が殺到して面食らった覚えがある。おそらく片っ端から連絡をして、連絡が返ってきたらラッキーくらいの考えなのだろう。

なお、分析によると男たちは「小児性愛者ではない」という。小児性愛者は裸の写真に興味がないからだ。つまり成人の男たちが自分の性欲を満たすために、単に成人より言いなりになりやすいという理由で少女たちに手を出そうとしていると考えられるのだ。実際、警察がドキュメンタリー撮影後に撮影データを求めてきたそうだ。

ドキュメンタリー中、一人だけ性的目的ではない一般男性が現れる。「すべての男がこんなことをするわけではない」という当たり前のことがわかり、ほっとできるシーンだ。

日本でのSNSを巡る児童生徒の被害実態とは

映画では、FacebookやSkypeを利用して出会っている。映画を見た後、「Skypeの呼び出し音がトラウマになりそう」と言っていた人がいたが、気持ちはよく分かる。

警察庁の「令和2年における少年非行、児童虐待および子どもの性被害の状況」によると、日本では「Twitter」「Instagram」「TikTok」など10代に人気のSNSで加害者と被害者は出会っている。その他、「荒野行動」などの子どもに人気のボイスチャットできるゲームアプリでも被害は多数起きている。「斉藤さん」等の見知らぬ人と話せるボイスチャットアプリも多い。

すべての共通点は、匿名で登録、利用でき、見知らぬ人とやり取りできる点だ。しかしそもそも、小学生の子どもにも人気の「YouTube」や「TikTok」、「Instagram」は13歳以下は対象ではないし、「フォートナイト」や「荒野行動」はそれぞれ、CEROで15歳以上対象となっている。対象年齢外の低年齢の子どもにはおすすめしないし、対象年齢以上でも約束を決めた上で見守りながら利用するべきだろう。

映画を「子どもと一緒に見た」保護者も

「この映画を子どもに見せるのはどうか」と、ある保護者に聞かれた。「R15+」なので、本編は15歳以上の子どもが対象となる。確かに性的虐待にあたる内容であり、小中学生には精神的にきつく、トラウマになるかもしれない。

しかし、少なくとも15歳以上であれば、積極的に見せてもいいだろう。もちろん、「きつい場合は無理しないで見るのをやめていい」という前提でだ。予告編だけでもかなりのインパクトなので、予告編のみを見せるというのでもいいだろう。

「SNS―少女たちの10日間」予告編

なお、ある50代女性は15歳になった息子と一緒に見たという。「息子は、『きつかったけれど一緒に見てよかった』と言っていた。『知らない人に裸の写真を送られた友だちもいるけど、こんなに嫌な気持ちになるんだというのがよくわかった。みんなにも気をつけるように言いたい』と言っていた。悩んだけれど、見てよかったと思う」

「スマホを持たせています。子どもを信じているから、特に制限していません」という保護者は多い。しかし、対象年齢外のアプリを制限も見守りもせずに利用させるのは、本当に問題ないのだろうか。そのような保護者にこそ、この映画を見て実態について学んでもらいたいと思う。

成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。テレビ・ラジオ・雑誌等での解説等も行っている。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)、『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(日本実業出版社)等著作多数。教育出版令和3年度中学校国語の教科書にコラム掲載中。

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