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「昼食後の歯磨き」で「肥満退散」?7万5千人データ解析【最新情報】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

取材で欧米を回るといつも思うのが「日本には肥満が少ないな」ということ。

日本では少し太めに見える人でも多分、シカゴあたりを歩けば細身に見えるはず。

とは言え、日本でも体重多めの人たちは増えてきているようです。令和4年のデータでは、男性の3人に1人弱、女性では約5人に1人でBMI*は25を上回っていました [厚生労働省:令和4年「国民健康・栄養調査」P9] 。

万国著作権条約にのっとり引用
万国著作権条約にのっとり引用

BMI:ボディ・マス・インデックス。最も広く用いられている肥満度の指標。体重を身長の2乗で割った値。日本では「25以上」が肥満とされる。なお肥満大国米国ではBMI「25〜30」は「太り過ぎ」とされ「30以上」で「肥満」とされる(勝手に基準を変えるな、ですね)

体重を増やさないために、どんな工夫をしていますか?炭水化物制限?食事時間制限?色々な方法が提唱されています。

そんななか今回は、「お昼ご飯後に歯を磨く人たちは太りにくかった」という論文をご紹介します。報告したのはお隣韓国は延世大学校のチョ・ユンジン氏たち。ネイチャーが出しているサイエンティフィック・リポーツという学術誌に掲載されました [文末文献1] 。

今回ユンジン氏たちが調べたのは、12歳から18歳の学校に通うおよそ7万5千人です。同じような生活環境下にあり、かつ歯磨きするしないは自主判断ですから、歯磨きが体重に及ぼす影響を調べるには良いサンプルでしょう。

ユンジン氏たちはこの約7万5千人を対象に、昼食後の歯磨き頻度(週にどれほどか)と肥満度の関係を調べてみました。

すると、昼食後に歯を「まったく磨かない」人たちに比べ「たいてい」(週4〜6回)、「いつも」磨く人たちは肥満である確率がそれぞれ、相対的に約15%と20%、低くなっていました。一方、「ときどき」磨く(週3回以下)人の「肥満」である確率は、「まったく磨かない」人たちと変わりませんでした。

万国著作権条約にのっとり引用
万国著作権条約にのっとり引用

歯磨きが炎症を抑制して肥満を回避?

なぜ昼食後の歯磨き回数が多いと、肥満が少ないのでしょう?

ユンジン氏たちは2つの可能性を挙げています。

1つ目は、歯磨きする人では健康意識が高いから(知らぬうちに)体重にも気を配っている、というもの。「歯磨き回数」が健康志向のマーカー(サイン)になっているという考え方ですね。

興味深いのが2つ目の可能性。それは「頻回の歯磨きで炎症が抑制され、その結果、肥満も抑制される」という理屈です。簡単に説明させてください。

体内で「炎症」が起きるとフィブリノーゲン(英語ではフィブリノジェンと発音)やC反応性蛋白(CRP)といった物質の血中濃度が上がるのですが、フィブリノーゲン [文末文献2] とCRP [文末文献3] はいずれも、その濃度が高いほど肥満度が高くなることがすでに知られています。

そして食後の「歯磨き」が歯茎の炎症抑制を介してフィブリノーゲンやCRPの濃度上昇を抑制し、その結果、肥満が抑制されているのではないかというのです。

これら2つの可能性のどちらが正しいのか、現時点では分かりません。

でももしも、昼食後の歯磨きが炎症を抑えて肥満を遠のけてくれる可能性があるなら、私はそちらに賭けますね。皆さんはいかがですか?

まとめ

「昼食後に歯磨きする日数の多い人では肥満の危険性が低くなっていた」という論文のご紹介でした。

そういえば、昔取材でお話を伺った歯科の先生が「歯ブラシは柄の穴の部分を親指と人差し指で挟んで使うと良い」と教えてくださいました。こうすると余分な力が入らないので歯や歯茎を痛めずに済むというのです。

最初は力が入らずもどかしい思いもしましたが、今ではすっかり慣れました。おかげさまで歯の定期チェックではいつも褒めていただいています。

歯磨き」については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひご覧ください。今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 昼食後に歯を磨く日数の多い人には肥満が少ない
  2. 血中フィブリノーゲン濃度が高いと肥満度も高い
  3. 血中CRP濃度と肥満度は正相関

本記事は医学論文の紹介です。データの解釈は論者により異なる場合もあります。またこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性も皆無ではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。15年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌、会員向け情報誌などに寄稿。近年では医師向け書籍も共著で執筆。国会図書館収録記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(含筆名)。

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