北海道の救急搬送困難が危機的状況 なぜ第8波でも逼迫を招くのか?
今回の新型コロナ第8波、「東高西低」の分布で始まっていますが、現在もっとも厳しいのが北海道です。気温が低く換気不良になりやすいという気候に加え、第7波を小さめの波で切り抜けた地域で逆に感染が多くなっています。さて、北海道の救急医療がなかなか危機的な状況に陥っています。
北海道の新規陽性者と病床使用率が過去最多水準
北海道の新規陽性者数は過去最多の約1万人を超えています(図1)。病床使用率も過去最高水準の50%近くに到達しました。
また、北海道の救急搬送困難(3回以上断られ30分以上留まった)事案数は、先週1週間で238件となっており、これも過去最多を記録しています(2)(図2)。
さらに基幹病院が大規模なクラスターを起こしており、待機手術なども含めた通常医療の機能が麻痺しつつあります。
北海道の病院で働いている知り合いの医師がいるのですが、「過去最大の波で、外来や救急などの初療レベルが医療崩壊に近い」と言っていました。
北海道は1病院あたりのウェイトが大
大都市圏だと、物理的な距離の近い他病院がサポートすることが可能ですが、「大病院はここしかない」という地域だと、大規模な院内クラスター発生は市民にとって壊滅的な打撃になります。
「あの病院がなくなったら大変だ」というところが、北海道は他都府県と比べて多い状況です。そのため、病院で院内クラスターが発生してしまい、機能不全に陥りつつある地域もあります(図3)。
予定手術が延期されたり、病棟を新型コロナ用に転用しないといけなかったりして、自宅に戻ることを余儀なくされた入院患者さんもいました。
なぜ救急搬送困難に陥るのか
「ただの風邪なんだから安静にして寝ていれば治る」と言う人は、おっしゃる通り安静にしていただければ治ります。
しかし、世の中には風邪で済まない人もいます。感染者数が多いほど、風邪で済まない人の絶対数が増え、これが救急医療や入院医療を逼迫します(図4)。
これにより、救急車を呼ぶ患者さんも増えます。新型コロナのこわいところは、この角度が急峻ということです。「先週と今週で目の前の光景がまったく違う」というくらい、上記の三角形が大きくなることはよく経験されます。
札幌では今波、救急搬送を57回断られた事例が報道されていますが、今後もし感染者数がさらに増えてくる場合、直面したことのない医療逼迫を経験するかもしれません。
まとめ
医療逼迫について、いくつか解決策が提示されています。
ワクチン接種は、感染者の規模を減らすことができるので非常に有効です。
外出自粛は集団での感染低減には有効ですが、経済的な反作用が大きいです。この舵取りは自治体に委ねられることになりました。
新型コロナの分類を変えるべきという意見もありますが、診療キャパシティはそう増えないかもしれません。これは先日記事でも書いた通りです(3)。
インフルエンザの動向が見えないので、現場としては同時流行がいつ来るのか、戦々恐々といったところです。
一人ひとりが、自分たちの住んでいる地域の医療を守る意識を持っていただくことが大事かと思います。引き続き、ワクチン接種を検討いただければ幸いです。
(参考)
(1) 北海道新型コロナウイルス感染症対策本部会議 【第132回】令和4年11月18日(金)開催. 資料1道内の感染状況について (URL:https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/7/2/9/6/9/6/4/_/%E8%B3%87%E6%96%991%E9%81%93%E5%86%85%E3%81%AE%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%8A%B6%E6%B3%81%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf)
(2) 第106回(令和4年11月17日)新型コロナウイルス感染症対策 アドバイザリーボード 中島先生提出資料3-5救急搬送困難事案件数のトレンド 2022.11.13 (第45週) 現在(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001013965.pdf)
(3) すべての医療機関が新型コロナを診れば、「第8波だ」と騒がなくて済むか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20221118-00324385)