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すべての医療機関が新型コロナを診れば、「第8波だ」と騒がなくて済むか?

倉原優呼吸器内科医
(コロナ病棟:筆者撮影)

波の大きさはまだ分かりませんが、新型コロナ第8波がやってきました。「すべての医療機関が新型コロナを診れば、『第8波だ』と騒がなくてもよいのでは?」という意見をよく目にするようになりました。コロナ禍前の発熱診療と現在を比較しながら、私見を交えて書きたいと思います。

致死率は大きく低下した

新型コロナは、感染性と致死率の高さから、動線分離が求められてきました。ワクチンの接種が進み、ウイルスも変異し続け、致死率は大きく低下しました。

波を経るごとに、「インフルエンザのようにすべての医療機関で新型コロナを診るべき」という意見を目にすることが増えていきました。

たしかにもっともな意見だと思います。

ただ、現在「新型コロナを診ていない医療機関」の中には、たとえば、眼科や皮膚科なども含まれています。発熱患者さんを対応する機能を想定していないクリニックに対して、新型コロナを診療すべしとまでは個人的に思いません。

外来におけるコロナ禍前の発熱診療はどうだった?

まず、外来診療で「すべての医療機関が新型コロナを診ること」について、考えてみたいと思います。

現在の「発熱外来」というのは、発熱患者等専用の診察室を設けて、自治体に届け出て認可を受けている外来のことです。

コロナ禍前まで、クリニックの構造上、発熱者の動線分離が難しいこともありました。医療機関の感染対策にも温度差があり、是非はともかくとして、同じ待合室に高血圧の患者さんと発熱患者さんが座っている光景もありました。

医療機関における動線分離(筆者作成)
医療機関における動線分離(筆者作成)

コロナ禍で「適切な感染対策」について理解が深まりました。ウイルス感染症について、厳密な感染対策を講じるべきであると、改めて医療従事者に認識されるようになりました。

そのため「すべての医療機関が新型コロナを診る」になったとしても、コロナ禍前よりも厳格な感染対策を講じた診療スタイルが当たり前になるかもしれません。

なので、そう簡単に診療キャパシティは増えないと思います。

入院におけるコロナ禍前の発熱診療はどうだった?

コロナ禍前、たとえば入院患者さんにインフルエンザが発生した場合、私たち医療従事者はどうしていたでしょうか。

インフルエンザを病棟内で広げるわけにはいかないので、個室に隔離します。それができない場合、インフルエンザの患者さんだけ集めて隔離します(コホート隔離)。感染が制御できないと判断されれば、病棟ごとを閉鎖します。

コホート隔離(筆者作成)
コホート隔離(筆者作成)

新型コロナのパンデミック当初、陽性と判明すれば全例、コロナ病棟のある病院に転院していました。しかし、現在は自施設で診切ってしまうところも多いです。インフルエンザと比べて重厚な個人防護具を着用している医療機関がほとんどですが、全体の動きはインフルエンザの院内発生とそう変わらないはずです。

そのため、「すべての医療機関が新型コロナを診る」が入院診療に適用されるとしても、すでに診ているところは自施設で診ている状況ですし、感染急拡大期の病床問題が、このお達しだけで万事解決するとは思いません。

また、院内に多くの新型コロナの患者さんが入ってきた場合、かつてない院内クラスターのリスクになるかもしれません。

病気は新型コロナだけではない

インフルエンザのように春が来れば収束すると分かっていて、医療の逼迫度合いが予想できる感染症ならよいですが、新型コロナの波は予測不可能です。

「病院は機能をストップさせて新型コロナの急激な波に備えよ」なら対応可能かもしれません。しかし、病気は新型コロナだけではありません。今も、外科医療、救急医療、小児・産婦人科医療など、さまざまな医療が並行しています。そのため、感染の拡大スピードが急速だと、容易に医療逼迫が起こります。

コロナ禍前のインフルエンザシーズンでもそうでしたが、感染拡大のスピードに耐えられない地域は、瓦解するように逼迫にいたります(インフルエンザシーズンの小児科などはその一例です)。それが年に何回も押し寄せるというのは、やはり医療機関にとって厳しいものです。

なので、波ごとの特徴を見つつ、現在の対策のように「引き算」で対応していくやり方が妥当なのだろうと思います。現在、「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みで、ほぼ5類相当にダウングレードが済んでいます(1)。

今後の展望や緩和策について、しっかりと政府が国民とコミュニケーションすることが大事ではないかと思います。

(参考)

(1) 30分の1に低下した新型コロナの致死率 「5類」にすべきか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20221031-00321811

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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