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ES作成もAIでやっといてほしい

山口浩駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授

技術が進歩して、各所でAIの活用が叫ばれ実例がどんどん出てきている昨今だが、企業の新卒採用にも、という話がある。

ソフトバンクが新卒の「ES選考」をAIに任せた理由

ITmedia 2017年08月29日

同社は2017年5月29日から、新卒採用のエントリーシート(ES)選考にIBMの「Watson」(以下、ワトソン)を活用。過去のES選考のデータを学習したワトソンが、受験者のESの合否判定をしているという。

記事によるとおよそこんなことであるらしい。

  • ESを全員分読むのに10人がかりで年間で800時間以上かかって大変。
  • 過去数年分の「合格したES」と「不合格だったES」1500件分をワトソンに学習させたところ採用スタッフの合否判断とほぼ同じになった。
  • AIにESの振り分けをさせたらES処理に掛かる時間を75%も削減できた。
  • 「不合格」にしたESは必ずスタッフが再度目を通すのでワトソンだけで落とすわけではない。
  • 評価基準が統一され、選考結果もより早く伝えられるので受験者にもメリットがある。

人間の判断の中でも比較的定型化しやすい分野をAIに任せ、より高度な判断をAIが行うという方向性だ。記事タイトルから受ける第一印象よりはかなり穏当で、弊害となりそうなところもきちんと手を打ってあるから、AI活用としてはまっとうなものであるように思う。

こうしたサービスを外販している企業もあるようで、今後こうした方向は伸びていくのだろう。

この両社は学生向けのサービスも開発しているようだが、企業選びの支援ということらしい。

HR領域に特化したAIエンジンを学生・企業向けサービスにそれぞれ導入―マイナビと三菱総合研究所が共同で

IT人材ラボ 2017/07/20

サービスには2つあり、1つは企業向けにエントリーシートごとに優先度を予測するサービス「AI優先度診断サービス」、もう1つは学生向けに企業研究の幅を広げるサポート機能になる。

もったいない。せっかく学生向けにサービスを提供するなら、なぜES作成サービスを入れないのだろうか。企業がAIを使うメリットのちょうど裏返しで、学生側にもAIを使うメリットはある。上記にならって書くとこんな感じだ。

  • ESを応募する全社についていちいち書くのは時間がかかって大変。
  • 過去の「合格したES」と「不合格だったES」と本人の情報をAIに学習させれば、合格可能性の高いESを出力できるのではないか。
  • AIにESを書かせればES執筆にかかる時間が大幅に削減できる。
  • AIが書いたESは必ず本人が目を通すようにすればAIだけで書くわけではない。
  • 企業はより多くのESを受け取ることになるだろうがAIで効率的に判定すればより多くの候補者から選べるので企業にもメリットがある。

付け加えると、企業が1人を採用するためにかけていいと思っているコストより、学生が採用されるためにかけていいと思っているコストの方が大きい(こちらは人生がかかっている)可能性は充分にあるから、サービス提供企業側のメリットも大きいかもしれない。また、ES作成に時間がとられて大学に来ない、課題ができないなどが減れば、大学にもメリットがある。

せっかくなら、企業のES判定支援サービスを提供する企業自身がその過程でAIに学習させた企業の採用判定基準を使ってES作成支援AIを作れば「どんな盾でも突き通す鉾とどんな鉾でも防ぐ盾」みたいでワクワクするんだが、まあさすがにそれはいろいろと難しかろう。それ以外の会社でも、学生たちからESシートと選考結果のデータとかをたくさん集めれば、似たようなものはできるのではないか。

まじめな話、AIの活用というと企業側の話ばかりが出てくる印象があって、ちょっと不満に思っている。AIを活用して人を判断しようという会社に対しては、人の側もAIによる武装が必要だろう。というか、これからの時代はAI対人間というより、人間同士がAIを活用する能力で勝負するようになっていくのではないか。そういうことが可能な技術だと思うので、関係各位におかれてはぜひ。

駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授

専門は経営学。研究テーマは「お金・法・情報の技術の新たな融合」。趣味は「おもしろがる」。

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