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グアルディオラやシャビの招へいは実現せず...バルサのクーマン監督続投と「クライフイズム」への郷愁

森田泰史スポーツライター
バルサ時代のグアルディオラ監督(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

船頭を失った船では、簡単に針路を失ってしまう。

バルセロナの2021-22シーズンの監督が決定した。ジョアン・ラポルタ会長が下した決断は、ロナルド・クーマン監督の続投だった。

この数週間、バルセロナの指揮官人事は注目の的だった。シャビ・エルナンデス監督、ジョゼップ・グアルディオラ監督、ハンジ・フリック監督と複数候補が挙げられていたが、最終的にはクーマン監督の続投が決定している。

メッシとクーマン監督
メッシとクーマン監督写真:ロイター/アフロ

クーマン監督は昨年夏、バルセロナの指揮官に就任した。現行契約は2022年夏までで、彼を解任するには契約解除金1200万ユーロ(約15億円)が必要だった。

「熟考の時期を経て、我々はクーマンの続投を決めた。そういった時期を設けて、彼らと対話できたことに満足している。我々は率直な意見を言い合った。クーマンの振る舞いは申し分なかった。考え方に違いがあったので、その差を埋める努力をした。バルサにとって何がベストなのかを検討した。この発表ができて、非常に嬉しく思っている」とはラポルタ会長の言葉だ。

クーマン監督は就任一年目でコパ・デル・レイを制してタイトルを獲得。彼が就任してから行われた補強はセルジーニョ・デストの獲得のみと、ジョゼップ・マリア・バルトメウ前会長から手厚いサポートを受けたとは言い難い状況で、チームを立て直した。

写真:ロイター/アフロ

「クーマンはチームに真剣に取り組む姿勢を与えた。クラブに対して、選手たちに対して、何を目指しているかを明確に示した。彼の就任は正しかった。とてもうまくやっていると思う」とはリオネル・メッシの弁だ。

「新加入の選手や若い選手が多かった。それは難しいシチュエーションだ。チームは少しずつ成長している」

■若手選手とラ・マシア

2020-21シーズン、バルセロナの選手の平均年齢は25.3歳だった。

2019-20シーズン(平均年齢26.3歳)、2018-19シーズン(26歳)、2017-18シーズン(26.7歳)、2016-17シーズン(26.3歳)、2015-16シーズン(26.9歳)と過去5年と比較して、最も若い選手たちが揃っていた。

なかでも、18歳のペドリ・ゴンサレス、24歳のフレンキー・デ・ヨングのパフォーマンスは図抜けていた。この2選手の存在が、クーマン監督に【4-2-3-1】【4-3-3】【3-1-4-2】とシステムチェンジを可能にした。

ペドリは、常にメッシと良い距離感を保ち、攻撃で潤滑油的な役割を担った。ドリブル、パス、ボール奪取とすべての面で非凡なセンスを持つ。メッシとセルヒオ・ブスケッツの中間に位置する選手が不足していたと、彼には本能的に分かっていたのかも知れない。

デ・ヨングは完全にプレースタイルを変貌させた。アヤックス時代の彼は、ボランチのポジションからダウンスリーでビルドアップを助けるというのを主な仕事にしていた。ディフェンスラインと前線のリンクマンが、彼だった。だがクーマン・バルサにおいては、2列目から飛び出して、果敢にゴールを狙うようになった。スコアラーとしての顔が、覗くようになったのである。

加えて、ロナウド・アラウホ、オスカル・ミンゲサ、イライクス・モリバといったカンテラーノが出てきた。リーガエスパニョーラ第32節ビジャレアル戦では、7人のカンテラーノが同時にピッチに立った。ラ・マシア(バルセロナの育成寮)を重視するアイデアが、取り戻されてきた。

アル・サッドのシャビ監督
アル・サッドのシャビ監督写真:ロイター/アフロ

ただ、ラポルタ会長が指揮官交代を”熟慮”していたのは確かだろう。

今年3月に行われた会長選で再選を果たしたラポルタ会長だが、第一次政権(2003年ー2010年)において、彼は2003年にフランク・ライカールト監督を招へいし、2008年にグアルディオラ監督の昇任を決断した。

この度、グアルディオラ監督やシャビ監督の招へいは実現しなかった。一方で、ラポルタ会長はジョルディ・クライフを入閣させている。マテウ・アレマニー、ラモン・プラネス、J・クライフで補強担当のチームを形成する算段だ。

セルヒオ・アグエロ、エリック・ガルシア、エメルソン・ロヤルの加入が決まっているバルセロナだが、クーマン監督の続投で、補強の流れは加速するはずだ。ジョルジニオ・ワイナルドゥム(リヴァプール)、メンフィス・デパイ(リヨン)と指揮官が好む選手を確保したいところであり、なおかつ”クライフ色”のする選手を連れてくるというのがバルセロニスタの願いだろう。

■イデオローグ

先日、ラポルタ会長が今季の振り返りを行った際に、スペイン紙『ペリオディコ』のジョアン・ドメネク記者から「現在のバルサのイデオローグは誰ですか?」という質問が飛んだ。これに対して、「ヨハン・クライフだ」とラポルタ会長は答えた。

【4-3-3】で、ポゼッション率を高め、攻撃的なフットボールで勝利する。観衆にスペクタクルを提供する。それがクライフイズムであり、バルセロナのフィロソフィーだ。

バルセロナのイデオローグ(思想家)は誰かーー。この問いは、クーマン監督の続投、J・クライフの入閣決定後も、繰り返しなされることになる。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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