ジャズを「リサイクル」?これからの音楽との付き合い方
1曲の音楽制作では、その過程で二酸化炭素が排出される。
ツアーをしていても、アーティストたちの移動などで、さらに排出量は増える。
「なんとかしたい」
そう思いながら、どうしたものかと考える音楽関係者に、北欧ではよく出会う。
環境や気候に優しい働き方ができないか。
試行錯誤を重ねる人々の中から、今回紹介するのはノルウェーのジャズアーティスト2組だ。
ヘルゲ・リエン・トリオ(Helge Lien Trio)は「古い音楽をリサイクル」しているという。
全く新しい曲を作らずに、古い曲を新しい曲にアレンジし直すことで、新曲を作る過程で消費されていたであろう排出量を削減している。
「1曲を仕上げるまでには多大な時間を消費します。自分たちがかつて作った曲をさらに発展させて、磨き上げたらどうだろうと思いついたんです。時間が経過して熟成した音楽には、さらなる深み加えることができます」とコメントをいただいた。
これまでの曲を見直し、新しく手を加えて、「再収録」という意味の「Revisited」を各曲名に追加した。それが新作アルバム『Helge Lien Trio - Revisited』だ。
ノルウェーでは過去の曲を再収録したアルバムは普通ではない。
楽曲制作過程の排出量を減らすために、入れ替わった新メンバーと共に、昔の曲を「リサイクル」するという発想自体そのものが、新しかった。
かつてのファンも「どう変えたのだろう」と好奇心が湧き、聞きたいという欲求に襲われる。
「曲に長生きしてもらう」という環境気候対策を意識した再収録アルバムは、過去のバージョンよりも好評だそうだ。
シグール・ホール (Sigurd Hole)さんは自然・環境活動に熱心なアーティストだ。
世界各地の音楽を招待する「オスロ・ワールド」音楽祭2020では、気候危機の影響を受けている地域と住民をテーマに、限定コンサートを手掛けることになった。
シグール・ホールさんはアマゾン熱帯雨林のドキュメンタリーを見たことをきっかけに、熱帯雨林に住む先住民族のヤノマミ族に関心を持っていた。
そこで彼は、熱帯雨林の課題や気候政策のテーマをコンサートに反映させた。
「今の世界は不安定で、怖いこともある。音楽空間にいる時はファンタジー世界に入り込んで、熱帯雨林の音を聞きながら、パンデミックからちょっと距離を置くことができます」
世界各地の先住民族の暮らしの知恵から私たちは学び、自分たちの無知を自覚すべきだとホールさんは考えている。
植民地の歴史や自然破壊の影響を受けている先住民族のほうが、私たちよりもよりサステイナブルな関係を自然と本来保っていると。
「気候危機も生物の多様性の喪失も、解決が難しい悪循環となっています。私は新しいシステムはないかと考えてもきましたが、どうしたらいいか分からなかった」
「風力発電を増設したり、EVで移動したり、二酸化炭素量をちょっと減らすだけでは意味はありません。私たちの自然との関係を根本的に変えなければ」
音楽祭で熱帯雨林の世界を再現しただけでは、彼の思いは終わらなかった。
オスロ・ワールド音楽祭では、フェス側からアーティストに限定のコンサートや曲の制作を依頼することがある。
このような時、「フェスでしか聞くことができない体験」を売るためにも、演奏された曲はフェス以外では二度と使用できない。
だが、それではもったいない。
音楽祭での観客は200~500人ほど。一度フェスで演奏された作品が、もっと広い観客に聞かれずに、おしまいだなんて。気候のことを考えてもそれは良くないと。
フェスで演奏した全曲は高品質で録音されていた。
もったいない、という思いはさらに強くなった。
ホールさんはフェス側と交渉し、フェス限定だった録音を別の場所でも使用していいという合意に達した。
これはノルウェーの音楽祭では異例のことだった。
新作アルバム『Roraima』は、熱帯雨林を冒険している気分になる音楽の旅だ。
「気候・環境を悪化させない音楽活動をしたい」
その声は北欧の音楽界で明らかに拡大しており、音楽カンファレンスではこのテーマについて話し合われる時間があるのも当たり前となった。
ホールさんは音楽家として、「自分の音楽活動の枠組みからまずは変える」ことを提案している。
気候フレンドリーな音楽との付き合い方。
アーティストだけではなく、ファンや全ての関係者に、これからもっと必要とされる問いかけなのかもしれない。