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京アニ事件から5年 現状と浮き彫りになった課題 #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:つのだよしお/アフロ)

未曽有の惨劇となった京都アニメーション放火殺人事件から5年。現場の跡地では関係者や遺族らによる追悼式が行われました。今年1月の一審判決で犯人とされる男に死刑が言い渡されたものの、控訴審にはさらに時間を要する見込みです。現状とこの事件で浮き彫りになった課題について、参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

▼男は強盗事件で服役後、特別な社会復帰支援の対象となったが、自ら接点を断ち切っており、改善困難な出所者の再犯防止策が課題に

過去の事件で「特別調整制度」対象に…京アニ放火殺人事件の青葉被告、拒否され支援難しく(読売新聞オンライン)

▼京アニ事件後もガソリンを使った凶悪事件が後を絶たず、現行法ではその未然防止やビルの防火・避難対策に限界があるとの指摘も

ガソリン悪用した惨劇の防止「現行法では限界」 京アニ放火事件でルール改正もすり抜け(産経新聞)

▼国の犯罪被害者等給付金とは別に条例で様々な被害者支援を行っている自治体も多いが、見舞金の金額や支援内容にばらつきがある

経済支援19都府県が条例規定 京アニ事件3年でアンケート(産経新聞)

▼遺族の都合を考えない報道機関の強引な取材や被害者の実名報道などによって、「二次被害」を受けていると訴える遺族もいる

勝手に住所を載せられた京アニ遺族「本当に、社会のため?」 実名報道だけでないマスコミからの二次被害(HUFFPOST)

エキスパートの補足・見解

京アニ事件では、これらの問題以外にも、高額な国費をかけた最新医療による男の救命措置にも非難の声が数多く寄せられました。死刑以外にありえず、そのまま死なせてしまえばよかったというものです。

手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』にも類似のエピソードが出てきます。父親を殺して投身自殺を図り、死の淵にあった少年の手術を依頼されたブラック・ジャックが、高度な医療技術と懸命の処置でその命を救ったものの、その後、少年は死刑判決を受けて刑死しています。

裁判を受けさせ、適正な手続に基づいて死刑を言い渡し、確実に執行するために犯罪者の命を必死になって助けるという刑事司法の問題や医師の虚しさを描いた実に重いテーマではないでしょうか。

一方、今回の男の手術を担当した主治医は、「死んでしまったら裁判そのものが開かれない。遺族や被害者が法廷で被告に直接質問したり、怒りをぶつけたりする機会がなくなってしまう。それで遺族や被害者の気が済むとは思いませんが、その場すら存在しないのはやるせないことです」と述べています。これもまた、男の生死に関わった当事者しか語れない至言でしょう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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