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いよいよ本格的に再開する映画館と新作公開。館内のソーシャル・ディスタンスはいつまで続くか

斉藤博昭映画ジャーナリスト
延期の末、6/12公開が決定の『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

新型コロナウイルス感染に伴う緊急事態宣言が徐々に解除され、間もなく東京なども含めた全国的解除が見込まれるなか、各地の映画館では次々に営業再開が始まっている。

5/29に再開される兵庫の豊岡劇場は、『ニュー・シネマ・パラダイス』を再開の第一弾として上映するなど、映画ファンにとって感涙モノのプログラムを用意している。

コロナ感染が広まり始めた2月から、『映画ドラえもん』の新作や、ディズニーの話題作『2分の1の魔法』『ムーラン』など続々と公開延期が発表され続け、それが雪崩のごとくあらゆる作品に広まっていった。5月末の現時点でも、たとえば7月公開予定作の延期が発表されるなど、その流れは続いている。

しかし劇場再開の動きに伴って、映画会社も6月は新作公開に踏み切るという方向になってきた。アカデミー賞の作品賞にもノミネートされ、当初は3/27公開だった『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は「初夏に延期」とされていたが、6/12の公開を決定した。大手(ソニー・ピクチャーズ)のハリウッド新作では、緊急事態宣言後、これが初の公開作品となる。その後もシルヴェスター・スタローンの人気シリーズ新作『ランボー ラスト・ブラッド』の6/26公開も変更ナシの予定で、この流れで、延期作品が次々と公開を決めていく可能性も高まる。

このまま順調にいけば、7月には『ムーラン』などの公開も視野に入るだろう。『ムーラン』は一応、アメリカでも7月公開が予定されているので、そこがクリアされれば日本での同時公開もありえる気がする。もともと今年の夏は、東京オリンピック・パラリンピックが開催されるとあって、例年よりやや落ち着いたラインナップだった。この夏、延期作が次々と公開されれば、観客にとっての選択の余地が大きく広がる。

しかしもちろん、問題は山積みである。

各地の映画館では、しばらく厳密なコロナ対策がとられる。基本的に前後左右は1席以上空けて着席。上映回ごとの消毒作業。営業時間の短縮。観客のマスク着用。従業員と直接、手が触れないようにする……など、劇場それぞれのルールが設けられている。本来、リラックスして楽しむ場所であるはずの映画館に、過度な緊張感が要求されるわけである。

『映画ドラえもん のび太の新恐竜』8月7日(金)、全国東宝系にてロードショー (C) 藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2020
『映画ドラえもん のび太の新恐竜』8月7日(金)、全国東宝系にてロードショー (C) 藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2020

6月中の公開予定作は基本的に「大人向け」のラインナップで、隣の席を空けるソーシャル・ディスタンスでも違和感はないが、7月に入ると『るろうに剣心 最終章 The Final』『今日から俺は!!劇場版』など、みんなで盛り上がるタイプの作品も公開が始まる予定。さらに8月には『映画ドラえもん のび太の新恐竜』のように子供たちの観客も見込むファミリームービーも控える。その時点で「1席空ける」ルールがどうなっているか。場合によっては、隣同士はOKで「1列空ける」というのもアリではないか。

6月26日に公開予定だった『それいけ!アンパンマン ふわふわフワリーと雪の国』なども、公開日はおそらく全国の映画館がオープンしている想定ながら、子供連れの客層への対応から、公開が延期された。

さらに問題なのは、劇場内でのソーシャル・ディスタンスによって、半分が埋まった時点で完売になるので、各回満席の大ヒットがしばらく見込めないこと。これは特にミニシアターにとって大きな打撃になり、人気の時間でも半分の席しか提供できないわけで、その状態が何ヶ月も続くと、せっかく営業を開始しても経営危機に陥ってしまう。『るろ剣』や『ドラえもん』の公開あたりのタイミングで、大手シネコンが全席OKに踏み切れば、ミニシアターも含め多くの劇場も追随できるかもしれない。

コロナ禍が始まった時点でも、映画館での換気はひじょうに厳格なルールがあることが報道され、飛沫が飛び交う場所でもないことから、クラスターは起こりにくい。各自の適切な予防で、なんとか安心して観客が足を運ぶ状況になってほしいところである。

現在、Netflixなどストリーミングの急伸で、自宅で映画を観る習慣がより行き渡っているが、その分、改めて「やはり映画は、映画館で観たい」と再認識している声も大きく聞かれる。一方で、各種のリサーチ(映画.comなど)では、ヘビーユーザーの映画ファンは「映画館がオープンしたら、すぐに行きたい」と答える率が高いものの、ライトユーザーの層は「すべてが落ち着いたら」という不安感も伝わる。

一般レベルで気軽に映画館へ足を運ぶという日常に戻るまでには、まだしばらく時間がかかるだろう。そもそも映画の入場料に対する個人の経済的余裕も厳しくなっているはずだし、交通機関を使って繁華街へ出るというリスクも伴う。しかし今、映画ファンにできることは、このような状況下で、映画の文化を支えるためにも、日常に意識的に戻すことでもあるという気がする。

コロナ禍が始まってから、日本では、ミニシアター支援のファンドや、独立系の配給会社を支えるためのオンラインで見放題の配信パックのプロジェクトなど、さまざまな模索が続いている。オンラインでのストリーミングと、劇場で観る文化の共存が、映画にとっての大きな課題になるだろうが、これまでも映画は、テレビの出現、ホームビデオなどソフトの出現と「共存」しながら発展してきたので、この難局をどう乗り切るのか、むしろ期待したいところ。

冒頭で書いた『ニュー・シネマ・パラダイス』で描かれたような、超“密”な劇場の光景は過去の遺物かもしれない。しかし劇場というひとつの共有空間で、笑ったり、感動して涙を流したりする人の表情は、この後も永遠に残ってほしいと思う。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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