芸人が落語家へ転身する理由
落語家・月亭方正が11日、東京・神保町花月で落語会「月亭方正 披露名の会」を行った。
2008年に「40歳を前に、本気でやってみたいと思ったのが落語だった」と落語家・月亭八方に入門。落語の仕事をする時は「月亭方正」、タレント業を行う時は「山崎邦正」と、2つの名前を使い分けてきた。しかし、今年からは落語を中心に活動をしていく決意の表れとして、名前を落語家名に一本化した。
真逆なキーワードが!
実は、方正以外にも、落語に傾倒する芸人がここ数年、急増している。その裏には、“安定”と“挑戦”という、真逆とも思える2つのキーワードが見えてくる。
技量さえあれば、70歳になっても、80歳になっても、第一線で続けることができるのが落語の世界。加齢がマイナスポイントではなく、噺(はなし)に重みや説得力を加えることにもなる。毎年売れっ子が誕生し、入れ替わりが早いテレビタレントの世界とは異なる時間が流れる。
さらに、なかなか先が見えない不景気が流れを加速させてもいる。「残念ながら、テレビ業界もここ10年で予算がどんどん縮小されてきました。料理人や職人の技術、弁護士や医師の免許のように、世の中の動きに流されない武器を持っておきたいと思うのは、どの世界でも共通のこと。先行き不透明な時代だけに、より一層、落語という確立された古典芸能に関心を抱く人が増えてきたんだと思います」(在阪民放局社員)
座布団1枚のスペースさえあれば、お客さんからお金をもらえる芸がある。その自信が、心の“安定”につながるというわけだ。
収入は落ちても…
そして、自分が築いてきた話術が、落語というルールの中で、どこまで通用するのか。今とは違う自分を目指してみたいという“挑戦”の気持ちが、落語に目を向けさせてもいる。「方正さんもですし、世界のナベアツから転身した桂三度さんもそうですが、タレント時代より、確実に収入は下がっています。落語家としては新人ですし、今までのテレビ出演料に比べて、高座の出演料はかなり少ない。現時点では、落語の仕事をすればするほど、収入は落ち込むはずです。今後、落語で大成すれば、大きな収入も得られるでしょうが、今は新たな芸への情熱と意欲が原動力になっているはずです」(在阪プロダクションスタッフ)
落語家に転身こそしていないが、千原ジュニア、「NON STYLE」の石田明、「キングコング」の西野亮廣らも、自身のイベントなどで落語に精力的に取り組んでいる。
これまでの戦力に加え、多士済々が集い、地殻変動が起こりつつある落語の世界。桂文枝、笑福亭鶴瓶、明石家さんまら数々のトップタレントを生み出してきた土壌から、また新たなスターが生まれてくる日も近いかもしれない。