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「ひとり旅がつまらない」のは理由がある。ソロ温泉を特別な時間にする3つのこと

高橋一喜温泉ライター/編集者

「ソロ温泉(ひとりでの温泉旅)」に何度も出かけているが、不思議と強く思い出に残っている旅とそうでない旅とに分かれる。

「あの旅はよかったなあ~」と思える旅は、ほとんど記憶に残らない旅と何が違うのか。

「ソロ温泉」が特別な時間となるかどうか。それは、おもに3つの要素で決まると言っていい。

「ソロ温泉」を印象深いものとする要素としては、次の3つが挙げられる。

①温泉

②食事

③交流

温泉の鮮度+α

①温泉は、「ソロ温泉」の核心的要素である。できるだけ鮮度のよい温泉が理想であり、ここ点での妥協は避けたい。具体的には「源泉かけ流し」の湯船がある宿がふさわしい。

もちろん、源泉かけ流しで、ある程度、源泉の鮮度が担保されていれば、十分に満足度の高い滞在となるが、「思い出として記憶に残るかどうか」という観点でいえば、源泉の鮮度+αがあるに越したことはない。

たとえば、絶景を見ながら入浴できる温泉。海や川、山など大自然に抱かれて入浴する体験は忘れがたい思い出となる。また、浴室の雰囲気も重要だ。たとえば、木造の趣きのある浴室に、ひとりで浸かっている時間などは印象に残る。

源泉そのものが強烈な特徴をもつ場合も記憶に深く刻まれる。目にも鮮やかな濁り湯であったり、強烈な温泉の香りであったり、ぬるぬるとした珍しい肌触りであったり……五感に訴えかけるような温泉は、体がいつまでも覚えているものだ。足元湧出泉のように、貴重な湯も印象に残るだろう。

いずれにせよ、「また訪れてみたい」と思う宿は、何らかの形で温泉が秀でているものだ。

「予想外」の食べ物は印象に残る

②食事も旅の印象を大きく左右する要素である。「〇〇温泉といえば、××がおいしかったなあ」と、その土地の特産を真っ先に思い出すケースも多い。

食事の記憶は、料理の値段と比例するとはかぎらない。高級旅館でいただく会席料理であっても、「おいしかったのは間違いないけれど、何を食べたかはっきり思い出せない」ということはよくある。

やはり、その土地ならではの食材をいただいたときのほうが印象に残る。福岡県の二日市温泉に泊まったときのことである。投宿した宿は、女将さんが一人で切り盛りする小さな旅館。じつは、料理にはあまり期待していなかった。「二日市温泉(筑紫野市)といえばこれ!」という料理や食材が浮かばなかったからだ。

ところが、このときの宿の料理は鮮明に覚えている。「たいらぎ」という地元で獲れた貝や、筑後川で獲れてほとんど地元で消費される「エツ」という魚などが食卓に並んだ。たいらぎは独特のぬるぬる、こりこりとした酒の肴にぴったりの味わいで、エツはサクサクとした食感が楽しい逸品であった。

「たいしたものは用意できませんが」と女将さんは謙遜していたが、このとき受けた感動は今もはっきりと覚えている。

「これを食べよう」と事前に調べたメジャーな特産品より、現地で期せずして出会った食材や料理のほうが思い出に残りやすい。そういう意味では、現地で直観に頼って飲食店に入るというのも、ひとつの方法である。

たいらぎ
たいらぎ

ソロだからこそ交流が生まれる

③交流は、現地の人とのコミュニケーションである。「ソロ温泉」はひとりになって「空白の時間」を愉しむのが究極の目的だが、現地での交流を否定するものではない。

ひとり旅では、そもそも会話をする機会が少ないので、現地の人とのやりとりは自然と印象に残る。

また、ひとり旅ゆえに、逆に現地の人と会話が弾む機会があるのも事実である。グループで出かければ、コミュニケーションはその中で完結し、現地の人と触れ合う機会は少なくなる。ひとりだからこそ、宿の人やお店の人、湯船でいっしょになった人などと、触れ合う機会が多くなるのだ。

といっても、コミュニケーションをとる時間は、旅全体の時間からすればほんのわずかである。空白の時間を阻害するものではないし、短いからこそ強烈に印象に残ることもある。

ソロ温泉である温泉地に車で向かっているとき、たまたま入ったコンビニでおばあさんに話しかけられた。「どこまで行きますか?」。話を聞くと、バスに乗り遅れてしまったので、家まで車に乗せてほしいとのことだった。田舎だから次のバスは数時間後である。

急ぐ旅ではなかったので快諾し、コンビニから車で10分ほどの家まで送ると、おばあさんは「おいくら払えばよいかしら?」と財布を取り出した。もちろん、そのくらいでお金をいただくわけにはいかないので、お断りすると、「それなら」と袋の中からみかんを出して、車のシートに置いていった。

たいした出来事ではないが、「○○温泉といえば、みかんをもらったなあ」と今も思い出す。「ソロ温泉は孤独」というイメージをもつ人もいるかもしれないが、意外とそんなことはなく、むしろ一つひとつの交流が強く思い出に残るものである。

高橋一喜|温泉ライター

386日かけて日本一周3016湯を踏破/これまでの温泉入湯数3800超/著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)/温泉ワーケーションを実行中/2021年1月東京から札幌へ移住/InstagramnoteTwitterなどで温泉情報を発信中

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3900超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)のほか、『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『マツコ&有吉かりそめ天国』『スーパーJチャンネル』『ミヤネ屋』などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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