中国の友人、福田元首相が贈った『中国の禍機』のアドバイス
「靖国参拝は首相個人のアジェンダ」
前駐米大使の藤崎一郎氏が13日、ロンドンにあるシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)で「変貌するアジア――今日のアジアをどう読み解くか」と題して講演した。
藤崎前大使は、安倍晋三首相になって日本の外交・安全保障政策が突然、変わったわけではなく、日米安全保障条約に基づく日米の抑止力を強化するものだと説明した。
安倍政権については、首相個人のアジェンダと、それ以外の一般的な課題を分けて考える必要があり、靖国神社参拝は「安倍首相個人の信条に基づくもので、国家戦略ではない。政権が交代すれば変わる」と指摘した。
日本はこれまで維持してきた従軍慰安婦などの歴史認識を転換しようとしているわけではないとも藤崎前大使は強調した。
望むものは何でも買える中国
質疑応答で、筆者は「今後10年で中国経済はさらに大きくなります。ひょっとすると日本経済の10倍になるかもしれません。買おうと思えば銀座通りでも何でも買えるようになります。武力を使わなくても何でも手に入れることができるのでは」と質問してみた。
藤崎前大使「20年以上前のことを思い出します。日本は金融バブルに踊って米国のロックフェラー・センターを購入しました」
藤崎前大使は、先月末に開かれた「第10回東京―北京フォーラム」で福田康夫元首相が歴史学者、朝河貫一(1873~1948年)の『日本の禍機』を引用したことを紹介した。
日露戦争で日本は、中国の主権擁護と列国の機会均等を掲げ、米英の支援を取り付けて勝利した。しかし、日本はこの二大外交方針を捨て、侵略主義外交によって満州を独占的に支配しようとした。それが国際社会での孤立を招いてしまった。
「世界に孤立して国運を誤るなかれ」と米国のイェール大学教授だった朝河は先の戦争に突き進んだ日本に警鐘を鳴らし続ける。
『日本の禍機』から『中国の禍機』を学べ
福田元首相は基調講演で日露戦争から敗戦までの軍国・日本の興亡、高度成長後の金融バブルとその崩壊に言及し、『日本の禍機』から『中国の禍機』を学んでほしいと呼びかけた。
「戦前の日本は身の丈を超えた成功におごり、自滅してしまった。急成長を遂げている中国が同じ過ちを繰り返してはいけない」、と。
中国にとって、福田元首相は古くからの友人である。7月に極秘訪中した際、中国の習近平国家主席と会談し、対話を呼びかける安倍首相のメッセージを伝えている。
「第10回東京―北京フォーラム」での基調講演も一部中国メディアに好意的に取り上げられた。
福田元首相いわく。「高齢化など、老いていくアジアでは高い経済成長を遂げている今の間に、さまざまな課題に取り組む必要があり、日中がいがみ合っている時間はない」
福田元首相と安倍首相は水と油の仲。ハト派を代表する福田元首相のメッセージは、どうやらタカ派の安倍首相の意向をくんだものではないようだ。
国際通貨基金(IMF)のデータベースで購買力平価換算では世界一の経済大国になった中国。東シナ海や南シナ海で力づくで現状変更を試みるなど、戦前の日本のように、おごりがいたるところからにじみ出す。
方や、日本の世論も領土問題や歴史認識をめぐり強硬論が勢いを増し、外交の硬直化を招いている。私たちは『日本の禍機』と『中国の禍機』について、もう一度よく考えてみる必要がある。
(おわり)