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がん免疫療法に用いられる新薬が引き起こす重症薬疹の現状

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

がんの免疫療法は近年大きく進歩し、多くの命を救っています。しかし、薬の副作用で命に関わる重症の薬疹が出ることがあり、注意が必要です。医療従事者や患者さんに向けて、実例と対策をわかりやすく解説します。

がん治療は従来の手術や抗がん剤に加え、近年では「免疫チェックポイント阻害剤」という新しい薬が開発され、使われるようになってきました。免疫チェックポイント阻害剤は、体内の免疫細胞を活性化させ、がん細胞を攻撃するようにするお薬です。

【免疫チェックポイント阻害剤によるスティーブンス・ジョンソン症候群の実態】

この新しい免疫療法薬は、がんを効果的に抑える半面、重篤な副作用リスクもあります。特に注意が必要なのが「スティーブンス・ジョンソン症候群」という、命に関わる重い薬疹です。

スティーブンス・ジョンソン症候群は、中毒性表皮壊死症などと並び、薬剤による重症の皮膚障害の総称です。発熱や発疹が出現後、短期間で全身の皮膚が壊死し、大きな水ぶくれができて剥がれ落ちるのが特徴です。口腔や眼球結膜にも発症し、死に至る危険な病気なのです。医療機関でただちに対応する必要があります。

この症状は、従来の抗がん剤でも起こり得ましたが、免疫チェックポイント阻害剤の登場により、新たなリスクとして注目されています。2023年までの症例報告を、ドイツのミュンヘン大学病院の研究チームがまとめました。

それによると、合計95例のスティーブンス・ジョンソン症候群が免疫療法薬で発症していました。薬剤別ではPD-1阻害剤が最多で、ついでPD-1とCTLA-4阻害剤の併用療法、PD-L1阻害剤の順となっています。患者の多くは肺がんや黒色腫の治療のためにこれらの薬を服用していました。

発症時期は、投薬開始から4週間以内が最も多く、51.7%に上りました。最短で2日目に薬疹が出現した例もあります。しかし、3か月以上経って出る例もあり、予期せぬ発症に注意が必要です。

口腔粘膜や眼球結膜への影響も一般の薬疹と同様に高く、4分の3以上で2か所以上の粘膜障害が見られました。皮膚のただれは広範囲に及ぶため、ほとんどが入院治療となります。

重症度判定ではスコアリングによる予後予測も試みられましたが、一般薬疹との比較は難しい状況です。免疫療法薬由来の症例のうち、約3分の1が死に至りました。

【スティーブンス・ジョンソン症候群の原因と防止対策】

こうした重症薬疹の原因は、免疫チェックポイント阻害剤によって過剰に活性化した免疫細胞が、自己細胞を攻撃するようになったためと考えられています。薬物過敏症としての側面と、免疫系の自己攻撃という双方の作用が重なったものです。

このように、免疫療法の普及とともに問題となる重症薬疹ですが、未然の予防や早期発見が何より大切です。

発症の危険因子や予測マーカーの同定が望まれますが、研究途上にあり、現状では事前の予測は難しい状況です。開発された新薬の使用時には、特に使用開始から4週間は様子を慎重に見守る必要があります。

患者さんへの説明と様子観察の徹底、発症時の適切な治療が求められます。初期症状として、発熱や眼の充血、口内炎などを見逃さず、適切な対処をすることが重要です。

スティーブンス・ジョンソン症候群が確認された場合、速やかに免疫療法薬の投与を中止し、集中治療室での管理が推奨されます。大部分の症例で、副腎皮質ステロイド剤の全身投与が選択されています。

また、口腔や眼球の障害には局所療法も求められ、疼痛管理なども重要です。場合によっては入院が1か月以上に及びます。

がんの免疫療法は、今や重要な治療選択肢の1つとなっていますが、薬剤の副作用という難しい課題が付きまといます。特にスティーブンス・ジョンソン症候群は、致死的な重症薬疹の可能性があり、無視できるリスクではありません。予防法の確立と、対症療法の更なる向上が望まれます。患者さんには十分な説明と協力を求めるのはもちろん、医療従事者も常にリスクを意識し、早期発見と適切な対応を心がける必要があります。

[参考文献]

- Satoh TK et al., J Dermatol, 2024;51:3-11.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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