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クルド人叩きの「ビジネス化」―蔓延するデマ、恣意的な印象操作

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
クルド人の人々 イラク北部アルビルにて筆者撮影

 埼玉県の川口市や蕨市のクルド人コミュニティーに対する、ヘイトスピーチや嫌がらせが深刻化している。クルド人が経営するレストラン前で大音響で罵詈雑言をがなり立てたり、子どもも含め、クルド人の人々を盗撮して、ネット上でばら撒いたり、クルド人に対するひき逃げ事件まで発生している。こうしたクルド人に対する差別や暴力は、この1年余りで急速に増加しており、それは一部のネットユーザーが煽っていることが大きいのだが、問題はメディアもそれに加担しているということだ。

〇クルド人に対するヘイトスピ―チ、ヘイトクライム

 クルド人とは、中東のトルコやイラク、イラン等の国々をまたがって暮らす民族で、「国を持たない最大の民族」とも言われ、その総数は2000~3000万人と推測される。特にトルコでは、クルド人は少数派として長らく弾圧を受け続けており、在日クルド人にも難民として避難してきたという人々が多い。しかし、法務省や出入国在留管理庁(入管)からは、極めて差別的な扱いをされ、難民として認められる可能性は、ほぼゼロという状況だ。また、一部のメディアやSNS等で事実と異なる情報や差別・偏見が煽られていることもあり、在日クルド人に対する嫌がらせも深刻なものとなっている。

 とりわけ悪質だったのは、クルド人の子どもを盗撮した挙句、その子が万引きしたというデマをX(旧ツイッター)等でばら撒いたことだ。その投稿をした人物は、埼玉県内の100円ショップ内でクルド人の子どもの動画を撮り、

「クルド人の子供が平気で万引きしてるのをよく見かけます。店員に声かけられてもニホンゴワカラナイと言えば済むので今後どんどんエスカレートしていく事でしょう」

と書き添えて、Xの匿名アカウント*で投稿した。だが、動画には万引きしているところは映っておらず、ジャーナリストや支援者らの問い合わせに対し、100円ショップ側も万引き被害を否定。つまり、子どもを盗撮した挙句、事実無根のデマを拡散し、クルド人に対するヘイトを煽ったというわけだ。

*現在、このアカウントは削除されている。

 また、別の人物は、クルド人達が使っている資材置き場を盗撮した挙句、クルド人をひき逃げするという暴挙をしでかした。このひき逃げ犯は逮捕されたとのことだ。

〇ヘイトを拡散する産経新聞の恣意的な記事

 こうしたクルド人に対するヘイトスピーチ、ヘイトクライムが急増した一つのきっかけが、産経新聞の記事だろう。2023年7月30日付の「病院でクルド人『100人』騒ぎ、救急受け入れ5時間半停止 埼玉・川口」という記事(該当リンク)では、

「トルコの少数民族クルド人ら約100人が病院周辺に殺到、県警機動隊が出動する騒ぎとなり、救急の受け入れが約5時間半にわたってストップしていたことがわかった」

とある。実際、この時に川口のクルド人達の間でトラブルが起きたことは事実であるのだが、それにしても産経新聞の書きぶりやネットでの拡散には、偏った視点や明らかな誇張があった。この件がXなどSNSで「クルド人100人が乱闘騒ぎ」と誇張されたことで、クルド人へのバッシングがSNS上で急増した。上述の産経新聞の記事では、当事者であるクルド人達には取材しておらず、匿名の「関係者」の一方的な情報だけを取り上げているが、ただ、当時、現場にいたクルド人の人々の話によると、騒動を起こしたのは数人程度で、他のクルド人達はむしろ、騒動を起こした者達を止めるために集まっていたのだという(関連情報)。


〇クルド人の難民性を否定したい産経新聞 

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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