文在寅大統領夫人の「華やかな衣装」に公私混同疑惑が浮上
史上稀に見る韓国の大統領選選挙をめぐる与野党候補のスキャンダル合戦は野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補が与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補を破り、当選したことで終止符が打たれたと思いきや、まだ終わってはないようだ。
野党への政権交代を許した文在寅(ムン・ジェイン)大統領は5月10日に退任し、青瓦台(大統領府)を去り、故郷の慶尚南道・釜山に移転するが、巷では早くも次期政権による文政権への「政治報復」が取り沙汰されている。というのも、大統領選挙期間中に尹次期大統領が文政権を「不正・腐敗の堕落した政権」と烙印を押し、大統領当選後も韓国メディアとのインタビューで「現政権初期のように前政権の積弊を清算するのか」との質問にきっぱり「やる」と答えていたからだ。
文大統領の退任後については野党の大統領予備選に立候補していた元喜龍(ウォン・ヒリョン)前済州道知事が「犯した罪を隠すことはできるかもしれないが、それをなかったことにはできない。次の大統領に誰がなっても次の政権で赤裸々に暴かれることになるだろう」と述べ、また同じく野党の有力候補だった洪準杓(ホン・ジュンピョ)議員までもが「文大統領は1年内に監獄入りする可能性がある」と大胆予測をしていた。
世間一般、特に野党支持者の間で「文大統領は投獄されるのを恐れているのでは」と囁かれる所以は▽かつての部下、柳在珠(ユ・ジェス)前釜山副市長の金融委員会在職当時の収賄容疑の調査を隠蔽した疑惑▽蔚山市長選挙で与党候補を勝たせるため野党候補のスキャンダルを不正に警察に流し、家宅捜査をさせるなど選挙妨害した疑惑▽脱原発政策を進めるため原発関連データーの改ざんを指示し、古里の原発を廃棄させた疑いがあるからだ。一連の疑惑は尹次期大統領が検察総長在任中にすでに調査済みである。
尹次期大統領は当選直後の記者会見で「前政権の積弊を清算するのか」と聞かれた際に「今はそのことについて触れるのはやめておく。どちらにしても法のシステムに沿ってやればよい」と答えていたことから一説では文大統領及び与党は戦々恐々となっているとも言われているが、その予兆かどうかは定かではないが、文大統領夫人・金正淑(キム:ジョンスク)氏の疑惑が急浮上し、今、世間の関心を集めている。
ソウル市合唱団に所属していた声楽家出身の正淑夫人の衣装やアクセサリーなどの装飾品、バッグなどに目を付けた反文在寅色の強い市民団体「韓国納税者連盟」が2018年に大統領秘書室長を相手に儀典費用に関する情報公開を求め訴訟を起こしていたが、ソウル裁判所は先月、公開を求める判決を下していた。
ところが、この判決に大統領府が応じず、控訴したことで疑惑がさらに深まり、朴槿恵(パク・クネ)前大統領系の市民団体「庶民民政対策委員会」が今度は夫人を業務上横領容疑でソウル警察に告発。さらに保守支持者のツイッター上に「正淑夫人の衣装」関連の情報提供を求める情報ページが開設されたことで情報が殺到し、その過程で、正淑夫人がこれまで公式の場で着用した洋服やコート24点、ロングジャケット30点、ワンピース34点、ツーピース49点、パンツスーツ27点などが次々とアップされた。これ以外にも韓国伝統民族衣装51点、ネックレス29点、指輪21点、ブローチ29点、カバン25個もリストアップされた。
どれもこれも高額で、贅沢品ではないかと言われているが、中でもカルティエのブローチについては日本円で2千万円を超える高級品と物議を呼んでいた。結局、このブローチはその後、約2千円相当の英国のアクセサリーブランド「Urban mist」の商品であることが明らかになったが、夫人の衣装を巡る疑惑は全く収まる気配はない。
青瓦台は夫人が身に着けているものは以前から所持していたものや手直ししたものであると釈明しているが、どちらにしても裁判の控訴審も警察への告発も大統領在任中の5月9日までには決着が付きそうにもないことから、このまま時間切れとなる公算が高いとみられている。
また、仮に夫人が大統領府の特殊活動費をファーストレディとしての対外活動のために使用していたならば問題はないが、仮に公私混同し、私的目的で使ったとしても青瓦台を去る時にそれらを国に返納すれば、業務上横領とはならないとみられている。但し、返納すれば、価格がわかってしまうだけに夫人としても頭の痛い問題である。
市民団体は大統領府が国民の血税である特殊活動費の使途を非公開にするのは国民の知る権利を奪い、憲法違反にあたるとして憲法裁判所にも訴える構えだが、仮に訴えが認められれば、尹政権の手によって情報が公開されることになる。
大統領選挙では李候補の夫人も同じように夫が京畿道知事の時の公私混同を選挙期間中に炙り出され、その結果、夫の足を引っ張ることとなったが、文大統領もへたをすると、同じような道を辿ることになるかもしれない。