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改めて、「憲法」とは何かについて考えてみよう

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー
憲法改正(写真:つのだよしお/アフロ)

  近年、憲法改正が話題になってきています。野党であった2012年に自民党は改憲草案を発表し、最近では安倍総理が現行憲法の9条を改正し自衛隊の存在を明記する改正に言及しました。それらに対して政治やメディア、さらに国民の間でも議論が起きてきています。ところで、そもそも憲法とは一体何なのでしょうか。

  歴史的に、憲法をみると、日本でも聖徳太子が作成したといわれる「十七条憲法」(注1)が古代にあったように、専制君主国家などを含めた近代以前の社会においても、「憲法」(注2)はさまざまな形で存在してきたのです。

しかし、近代以前では、さまざまな面において、権力者の側の力が強く、国民・住民などに対してかなり抑圧的で一方的なものがつくられ、強制的な対応が行われることが多かったのです。その後、そのような権力者の行為や横暴などに対して、国民や市民が立ち上がり、基本的人権など(注3)を獲得し、それが憲法の中で守られるようになってきたのです。

そのような歴史を経てつくられる近代憲法は、権力者が守るべきことを定めており、国家の権力から国民の権利などを守る存在として発展してきたのです。つまり、憲法は、権力者よりも上位にあり、権力者に歯止めをかけているわけです。このような考え方を「立憲主義」と呼ぶわけです。

 

  憲法には、当該国の国家を治めるための基本構造が定められ、権力者は、そこに書かれていることに基づいて国を治めていくわけです。また、権力者の側が奪ってはならず、守っていくべき権利や条件などの普遍的な価値や権利なども書かれています。つまり、「統治のあり方」が定められているのです。

これを別のいい方をすると、憲法は、国民と権力者の間の契約であり、権力者が国民に対して約束し、実現すべきことが書かれているということです。また国家は、憲法に書かれている以外の権限を行使することはできません。その意味で、憲法は、いかなる法律よりも、いかなる権力(者)よりも上位に位置しているわけです。

  近代憲法のこのような性格から、憲法には、国民の権利が多く書かれており、義務については限定的にしか規定されていないということになるわけです。

  他方、このような近代憲法や立憲主義は欧米の由来で、日本の歴史とは異なるので、日本には日本独自の憲法の考え方があるという意見もあります。しかしながら、そのような考え方に対しては、次の歴史的な事実も思い出すべきでしょう。

日本が近代国家に邁進していた明治時代、近代憲法である大日本帝国憲法(注4)が制定される前の最終段階の会議において、伊藤博文首相(当時)は、権利条項を不要という主張に対して、「憲法ヲ創設スルノ精神」として、「第一君権ヲ制限シ、第二臣民ノ権利ヲ保護スルニアリ」と反論したそうです(注5)。つまり、日本の近代憲法も、先に述べたような考え方に基づいて制定されてきたという経緯と歴史があるのです。 そのことは、明治時代が現在に至る日本の近代国家の基礎を築いたわけですから、日本の歴史的にも非常に重要な視点だといえます。

  このように考えていくと、近代憲法や立憲主義の考え方は、欧米の近代の歴史から生まれたものかもしれませんが、日本の近代憲法も同様の考え方に基づいて構築され、日本の国家が運営されてきたという歴史と経験の蓄積があることを想起すべきでしょう。そして、世界のほとんどの国々でもこの考え方は踏襲されてきているのです。そのようなことからも、近代憲法の考え方は、正に人類の歴史の産物と考えられるわけです。

  今後、日本国憲法の改正の問題が、ますます現実の議論に上がってくるでしょう。その際には、上述したような憲法そのものの問題や日本および人類の歴史も踏まえて、十分かつ的確に議論を行い、日本という国をどのようなものにしていくかという未来へのビジョンを構想しながら、その問題に対して結論を出していくことが必要です。

(注1) これは、憲法と呼ばれていますが、現在の憲法とは大きく異なり、厳密には法といえないものですが、官吏・貴族の心構えを述べたもので、日本最古の成分法で、604年に制定されました。

(注2) ここでいう「憲法」は、国のガバナンスを示す決まりを広く指しています。

(注3) その権利は、人間であることに基づいて享有する普遍的権利で、まず思想、

良心、表現の自由などの自由権的基本権が確立され、時代と共に選挙権などの政治的基本権が拡充・保障され、さらに生存権や団結権などの社会経済的基本権という考え方も含まれるように発展してきたのです。

(注4)現在の日本国憲法の改正以前の憲法です。

(注5)『いま「憲法改正」をどう考えるか』(樋口陽一著、岩波書店、2013年)p16~p17参照。

[さらなる理解のための参考文献]

・『憲法 第六版』芦部信喜 2015年 岩波書店 

・『超訳 日本国憲法』池上彰 2015年 新潮新書 

・『僕らの社会のつくり方』鈴木崇弘ら 2014年 遊行社 

・『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』伊藤真 2013年 大月書店 

「(自民党)日本国憲法改正草案」

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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