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メガソーラー建設が水枯れにつながるのはどうしてか?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
大規模太陽光発電所(写真:イメージマート)

水の動きが変わるとはどういうことか

 水は「国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものである」(水循環基本法第三条)。

 その水をめぐり、丸森町耕野地区(宮城県伊具郡)の大規模太陽光発電所(メガソーラー)建設についての事業者と住民の話し合いは平行線をたどっている。

 住民が懸念するのは、事業によって水の動きが変わるかどうかということ。住民のほとんどは井戸水を利用しており、水の動きが変わると井戸が枯渇し、生活できなくなる可能性がある。

 水の動きが変わるとはどういうことか。

 事業計画は60ヘクタールと広大で、そのうちの大部分の森林が皆伐される。森林の土壌によって吸収されていた水が、森林がなくなり表面が乾燥することで、吸収されにくくなる。

建設予定地(筆者説明)
建設予定地(筆者説明)

 地質も関係する。この地域には真砂土層が表層に薄く広く分布している。真砂土とは花崗岩が風化してできた砂状の土壌で、①脆くて崩れやすい、②雨を浸透させて地下水をためるという特徴がある。

 ①について、令和元年東日本台風(台風19号)は、関東、甲信、東北地方など甚大な被害をもたらしたが、丸森町では土砂災害が多発し、10人死亡、1人行方不明と、自治体単位では全国で最多の犠牲者を出した。

 ②について、この地では比較的浅い井戸から水を取水している。

 地下水というと浸透するのに数十年もかかるというイメージがあるが、ここでは降った雨が比較的短い時間で真砂土層に浸透していく。

丸森町内にある花崗岩採石現場跡(筆者撮影)
丸森町内にある花崗岩採石現場跡(筆者撮影)

 地表に大規模なメガソーラーが建設されることによって、雨水が地中に浸透する経路が変わったり、皆伐によって浸透しにくくなると、井戸水が枯渇する可能性もある。

 実際、事業地の近くで4ヘクタールの別のメガソーラー開発が行われ、2世帯の井戸が使えなくなった。しかしながら、当該事業者は住民に対し、「井戸の枯渇と工事の因果関係が立証されない限り賠償はしない」と主張している。

住民は調査を求めるが

 因果関係を立証するには、調査が必要だ。

 耕野地区の住民は事業に対し、地形、地質、水象、水利用、水循環系・水収支などを把握する調査を求めている。

 事業者はそれには同意せず、9月1日、井戸水の補償費などとして1億3000万円を預託することを提案した。預託金は井戸水の補償や調査費用の他、地域振興への使用が認められるが、預託期間は5年間で残金は返還する。事業者側は住民側に1週間以内の回答を求めている。

 一度枯渇した水資源はもとには戻らない。慎重な対応が必要だろう。

 また、3000m2以上の土地の形質変更(土地の形状を変更する行為全般)には自治体への届け出や許可が必要だ(土壌汚染対策法)。自治体は許可責任の重さを考え、交渉を事業者と住民に任せきりにすべきではない。水枯れや土砂災害の懸念は耕野地区に限定されることではないからだ。

 メガソーラーの建設計画は、2012年開始の再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)によって急増した。しかしながら住民からの苦情やトラブルも増えており、2017年に朝日新聞や一橋大学などが実施した自治体アンケートでは、(1)景観(2)光害(太陽光パネルからの反射光)(3)工事の騒音(4)土砂災害(5)住環境悪化(6)低周波振動などが問題にされている。

 事業会社はさまざまな観点から事前調査を行い、住民に説明する必要がある。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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