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紙の本が強さを保つ児童書が好調、小学館の『大ピンチずかん』『図鑑 NEO』が快進撃

篠田博之月刊『創』編集長
小学館の『大ピンチずかん』と『図鑑NEO 音楽』(筆者撮影)

 2023年末のトーハン調べの年間ベストセラーでトップだったのは小学館の『大ピンチずかん』だった。2位は『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』。児童書の分野では、まだスマホの影響は限定的で、紙の本が強さを発揮しているといえる。

 そんな中で児童書に強い小学館が底力を発揮している。2023年も、前年を超える売り上げだったという。2024年1月発売の月刊『創』(つくる)2月号の取材で大手出版各社を回ったが、この児童書の堅調ぶりは、注目すべきものと感じられた。

『大ピンチずかん』については後述するとして、もうひとつ小学館の児童書の中で好調な『図鑑 NEO』について、第三児童学習局の青山明子チーフプロデューサーの話を紹介しよう。

『図鑑 NEO』で発揮された小学館の底力

「『図鑑 NEO』は2023年2月に新関連シリーズ『NEOアート』が立ち上がり、6月に『図鑑 NEO[新版]人間』、そして11月に『図鑑 NEO 音楽』を刊行しました。

『図鑑 NEO[新版]人間』は7万部でスタートし約半年で10万部に至っています。カバー裏に二次元コードが付いていて、人体の計20パーツの説明が音声と動画で見られます。これはNEO初の試みです。

 小学館の育児メディア『HugKum』と共に『図鑑 NEO』が『自由研究コンクール』というのを行ったのですが、ある子が、『図鑑 NEO[新版]人間』を読んでお母さんが入院、手術をした臓器を調べたと自由研究に書いてきたのです。ああこんなふうに活用してもらえたのだと嬉しく思いました。 

 11月22日に発売された『図鑑 NEO 音楽』は、300種以上の楽器を紹介しているのですが、これも二次元コードでそれぞれの楽器の音源が聞けます。カバー裏には時価数十億ともいわれる伝説のヴァイオリン、ストラディヴァリウスの原寸大の写真が掲載されているのですが、その音源も聞けます。

 図鑑に掲載した楽器の写真はほぼ撮り下ろしで、弊社のスタジオに運び込んで撮影しました。一つひとつ撮影し演奏の音源を録っていく作業に3年以上費やしました。民族楽器は演奏できる人も限られており、その人に来ていただいて演奏してもらいました。ちょうどコロナ禍の頃で、多くの苦労がありました」

 最近は、『図鑑 NEO』のコンテンツを、違う形で再構成する試みも増えているという。

「例えば小学館100周年に合わせて『ずかんミュージアム銀座』という、『図鑑 NEO』に掲載された一部の生き物をデジタル技術を使って見せる美術館を2021年7月6日から2023年9月3日まで開きました。コロナ禍で大変でしたが、子どもたちからたくさん手紙をいただき、スタッフから『作ってよかったね』という声があがっています。

 それから2023年4月28日から9月3日まで、月をテーマにした『NEO月でくらす展』というのも日本科学未来館で開催され、約10万人が訪れました。これは今後、小学館のS-PACEというメタバース空間でも見ることができるようになります。

 また8月16日から24日にかけては千葉県のイオンモール幕張新都心で『小学館の図鑑NEOたんけん昆虫フェス』を開催し、9日間で1万人以上が訪れました。

『図鑑 NEO』には『NEOぷらす』というシリーズがありまして、その『くらべる図鑑』というのが非常によく売れているのですが、2021年の夏から毎年、春と夏に展示をやっています。これは各地を巡回していますが、2023年夏は郡山のふれあい科学館で行いました。

 さらに根強い人気の『図鑑 NEO 恐竜』については、福井県立恐竜博物館が23年夏、リニューアルしたのを機に、『展示図録ジュニア版』を作りました。

 タカラトミーとの協業では、ライオンの形をしたタッチペンで例えばキリンのところを触ったらキリンの情報をおしゃべりしてくれるおもちゃを一緒に作ったりしました。

『図鑑 NEO』は信頼ある内容の書籍を出す一方、そのコンテンツをどう活用していくか、両輪で考えています」(青山チーフプロデューサー)

 今後の刊行計画はどうなっているのか。

「2024年にも数冊刊行予定です。動画などの撮影や、編集も着々と進んでいます。デジタル施策は確実に、もちろん本書の中身に関して手を抜かないというのが基本です」(同)

『大ピンチずかん』はシリーズ累計125万部

『図鑑 NEO』を含む児童書や文芸書などの売れ行きについては、マーケティング局の伊澤亮一ゼネラルマネージャーに聞いた。

「『図鑑 NEO』は、2023年2月に『NEOアート』という関連シリーズが誕生、新しいジャンルに挑戦しました。『図解 はじめての絵画』というタイトルで初版6万部スタート。11月現在、5刷23万部に積み上がっています。

 23年6月に出た『図鑑 NEO[新版]人間』は初版7万部スタート、2刷10万部です。11月22日発売の『図鑑 NEO 音楽』は8万部でスタートし、約1週間で5万部の重版が決まりました。

 それから『学習まんが日本の歴史』は、22年12月1日に出した1巻目が4万部スタートで6万2000部です。全20巻ですが、最終20巻も3万7000部スタートで4刷5万9000部まで行っています。

 今、話題になっているのは『大ピンチずかん』ですね。1巻目が22年2月に初版1万でスタートしましたが、じわじわと伸びて22刷まで版を重ね、23年12月末で80万部まで行っています。11月22日に『大ピンチずかん2』を出しましたが、こちらは12万部スタートで、発売前重版と年末年始にできてくる分を合わせて45万部に達しています。シリーズ累計125万で、絵本のジャンルでは、稀有な例と言えます。

そのほか好調な児童書は…

 それから、キャラものでいうと、7月26日に『ポケモン パルデア図鑑』が10万部スタートで、11月末で36万部まで行っています。

 またドリルの市場では、数年前に『うんこドリル』が大きなブームになりましたが、弊社も満を持して『ポケモンずかんドリル』を刊行しました。2023年2月22日に7点刊行し、一番売れているのが『小学1年生 たしざん・ひきざん』で、3万5000部でスタートして10月に24万部まで積み上がっています。7点中4点が10万部を超えており、ドリル市場でシェアナンバー1になっています」

 好調の背景には様々な施策の効果もあるという。

「かなり積極的にテレビCM等も含めて宣伝はやりましたし、2023年はいろいろな賞も受賞しました。CMは、今もお笑い芸人のやす子さんのものをやっているし、朝の情報番組などでも、やす子さん絡みで紹介いただいています。宣伝と販売のマーケティングチームの力も影響したのではないかと思います」(伊澤ゼネラルマネージャー)

 児童書の図鑑などは電子版でなく紙の本が安定した市場を形成している。しかも、児童が成長するにつれて次の世代が読者になるため、市場そのものが一定の規模を保っているという。

「辞書についても小学館から2023年には『例解学習国語辞典』と『例解学習漢字辞典』の4年ぶりの改訂が行われました。『例解学習国語辞典』はワイド版も含めて23万5000部です。『学習漢字辞典』はトータルで16万5000部です。この部数は、4年前に改訂した時の初版と同じです。市場全体が落ちている中で同じ部数というのは、やはりこのジャンルでも市場1位のシェアを保っていくということです」(同)

 出版市場全体としては紙の本、特に雑誌がじわじわと部数を落としているのだが、児童書の好調がどこまで続くのか。注目される。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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