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父の日も返上!?仕事も財産も投げうって娘に賭ける韓国“ゴルフ・ダディ”たち

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
アメリカで活躍するチョン・インジ父子の苦労話も有名だ。(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

本日6月19日は父の日。韓国には“父の日”がないが(代わりに毎年5月8日が父親と母親に感謝する“親の日”となっている)、韓国女子ゴルフと父親の関係は深い。韓国女子ゴルフが今や世界を席巻するほどまでに成長できた陰には、“ゴルフ・ダディ”と呼ばれる父親の存在があると言われているほどだ。

“ゴルフ・ダディ”の元祖は、韓国女子ゴルフ界の“生きたレジェンド”とされるパク・セリ父子である。1998年に彗星のごとく登場し、アメリカLPGAツアー25勝で世界ゴルフ殿堂入りした娘を鍛え支えたのは、父パク・ジュンチョル氏だったことは有名な話だ。パク・ジュンチョル氏本人もゴルフはかなりの腕前だという。

日本で活躍している“スマイルクイーン”ことキム・ハヌルの父親もかなりの実力でシングルプレーヤーだという。ゴルフ雑誌記者によると、現在は日本でプレーしていることもあって日本人キャディにバックを託しているそうだが、韓国時代はデビューから2010年までは父親がキャディを務めている。

(参考記事:韓国美女ゴルファーたちに聞いた!! 日本から離れられないワケ

そして、そんな娘たちがゴルフに集中できるように全面サポートを惜しまないのが、韓国の“ゴルフ・ダディ”たちでもある。“歩くゴルフ女神”と呼ばれる キム・ジャヨンはシングルプレーヤーだった父親の影響でクラブを握り始め、韓医学の医者である彼女の父は娘のためにスポーツ医学や栄養学を学んで健康管理役を務めている。

一昨年に韓国国内で6冠を達成し、現在はLPGAで活躍する“ゴルフ神童”キム・ヒュージュの父親は、娘がアマチュア時代に韓国代表に選ばれた中学3年時に事業を畳んで、試合を転戦する娘に帯同して運転手役や調理師役を買って出ている。

最近で有名なのは2015年に日米韓のメジャー大会を制し、現在はアメリカでプレーするチョン・インジ父子だろう。チョン・インジの父親は娘のレッスンのために事業を畳んで“ゴルフ・ダディ”になり、所有していた土地を切り売りして娘のゴルフ生活を支えるなど、その苦労話は涙なしでは語れない。

(参考記事:“若きゴルフ富豪”となったチョン・インジ親子の知られざる苦労秘話

韓国のゴルフ記者も言っていた。

「韓国の女子ゴルファーたちはそんな父親の背中を見て育ってきただけに、今度は自分が稼いで家計を支えなければという家長としての自覚が強く、それが彼女たちの勝負強さにつながっているのでしょう」

娘のために仕事も財産も人生さえも投げ捨ててサポートする父。その父の期待に応えたいと思う娘。それだけに優勝した暁には父娘ともに感激もひとしおだ。韓国女子ゴルフ界の超絶セクシークイーン”と呼ばれるアン・シネも、2015年にKLPGAチャンピオンシップで悲願の初優勝した際、その報告を受けた父親の泣き声を生まれて初めて聞き、涙を抑えられなかったという。

何かとその美貌ばかりに注目が集るアン・シネだが、自身のSNSで「外見ばかりに気を使っていたら優勝することもできなかったでしょう。父の泣き声を聞いて、涙が止まりませんでした」としたほどだった。

(参考記事:韓国ゴルフ界の超絶セクシークイーン、アン・シネのSNSがスゴい!!

最近ではイ・ボミの父娘物語が涙を誘った。イ・ボミの父は娘のために練習場まで片道1時間半の道のりの送迎を買って出るだけではなく、プロになってもさまざま面で娘を応援し続けたという。が、2014年9月に父は56歳の若さでこの世を去ってしまった。イ・ボミは昨季、日本女子ゴルフツアーで賞金女王に輝いているが、それは亡き父と交わした約束でもあった。それだけにイ・ボミの師匠チョ・ボムスも『イ・ボミと名物コーチの二人三脚物語』の中で、「現在のイ・ボミを作ったのは間違いなくご両親の熱意でしょう」と語っているほどだ。

もっとも、そんな“ゴルフ・ダディ”同士が衝突してしまうケースもある。3月に行なった別名“シンガポール空港事件”がその典型だ。前出のチョン・インジが空港エスカレーターで落ちてきたキャリーバックにぶつかって全治2週間の負傷。そのカバンの持ち主がリオデジャネイロ五輪出場枠を争っていたジャン・ハナの父親だったこともあって問題に。

それが原因でふたりの父親同士の感情的なもつれにまで発展し、「ジャン・ハナVSチョン・インジ論争の元凶は“ゴルフ・ダディ”たちの影の競争のせい」(『韓国日報』)と、父親も加わった過熱競争を厳しく批判する記事も出たとほどで、ジャン・ハナも「韓国のトーニャ・ハーディンか」との陰口も叩かれ、不眠症に悩されてスランプに陥った。

仕事も家庭も財産も投げうってツアーを転戦する娘に付き添い、かばん持ちや運転手はもちろん、炊事に洗濯、キャディまで務める韓国のゴルフ・ダディ。“一人三役”をこなす熱意には頭が下がるが、娘への寵愛が度を過ぎてしまうとそれが結果的には娘への負担になりかねないこともある。“シンガポール空港事件”は韓国ゴルフ・ダディたちに多くのことを示唆したことだろう。

それでも今日もどこで娘に“オールイン”しているであろう韓国ゴルフ・ダディたち。韓国では子供の勉学に過度に介入する教育熱心な母親を揶揄する言葉として“スカートの風”という意味の「チマ(スカート)・パラム(風)」という造語があるが、ゴルフ界には 「パジ・パラム」がいつもどこで吹いていると言われている。「パジ」とはズボンのこと。つまり、父親たちの熱心な激励だ。

そんな“パジ・パラム”に後押しされて戦う韓国女子ゴルファーたち。果たして“父の日”に最高のプレゼントを贈る孝行娘は誰か?

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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