大学バスケットボールの新たな発展に向けて第一歩を踏み出したWUBS
8月9日から3日間、代々木第二体育館で大学バスケットボールの新イベント、Sun Chlorella presents World University Basketball Series (WUBS) が開催された。この大会は楽天スポーツが企画し、全日本大学バスケットボール連盟(JUBF)が主催という形で東海大、アテネオ・デ・マニラ大(フィリピン)、国立政治大(チャイニーズ・タイペイ)、ペリタハラパン大(インドネシア)が参加。楽天スポーツは公式サイトを通じて、WUBSを毎年恒例のイベントにしようとしている。
「この新しい大会は、イクオリティ、エンパワーメント、エンゲージメントの価値観のもと、スポーツの力で感動と卓越性を鼓舞し、才能ある若者やコミュニティに力を与えることを目的として構想されました。2023年以降のシリーズでは、アジアを越えて新たな国や地域を開拓していく予定です」
大会は国内でJ SPORTSと楽天NBA、参加した3チームの所在である国と地域を含めて7局が映像を配信。バスケットボールが人気No.1スポーツとなっているフィリピンでは、Bリーグでプレーするキーファーとサーディのラベナ兄弟の出身校であるアテネオ・デ・マニラ大の注目度が非常に高い。ペリタハラパン大に大勝した後、国立政治大と東海大に競り勝って初代チャンピオンになると、ソーシャルメディアで大きな反応があったのは言うまでもない。
ペリタハラパン大は少し力が劣ったものの、アテネオ・デ・マニラ大、2位の東海大、3位の国立政治大の実力は拮抗。特にアテネオ・デ・マニラ大対国立政治大戦は、攻防両面で見どころ満載の試合展開が最後の最後まで繰り広げられた。いずれのチームもシーズンに向けた準備を進めている状況で、国際試合を経験できるのはプラスでしかない。アテネオ・デ・マニラ大を指揮するタブ・ボールドウィンコーチは、WUBSに参加した意義を次のように語る。
「チームとして成長するために日本にやって来た。ここ数年は一貫したロスターを構成していただけに、今のアテネオは新しいチームだ。チームが一体となってプレーすることを学び、チームとしてレベルアップし、勝利のカルチャーを構築していくことが重要。負けたらそれはできない。現時点で勝つために何をしなければならないかを知ることができたのは、最大のプラス材料だったと思う」
東海大の陸川章コーチも、「最後まで諦めない姿勢、戦う姿勢は3ゲームを通じて成長できたと思います」という言葉を残したことからも、8月20日に開幕するリーグ戦に向けていい経験ができたと認識。今年結果を出すことで、来年も出場できるようにしたという思いを持っている。
告知と集客は来年への課題
WUBSはアクセスのいい代々木第二体育館で行われたものの、最終日を除くと平日開催だったこともあり、観客数が伸びなかった。来年の開催では、やはり週末を含めたスケジュールを作る必要がある。今年同様に8月に開催するのであれば、インターハイと沖縄で行われるワールドカップのグループ戦と被らない日程にすることも、集客を増やすために欠かせない要素と言えよう。
また、今回は開催の正式発表が6月30日だったため、チケットセールスにつながる告知に十分な時間がなかったのは明らか。日本在住のフィリピン人、台湾人、インドネシア人たちへのアプローチでまずまずの成果はあったものの、祝日だった最終日以外、映像を一目見ただけで空席の多さがわかるくらいの入りだった。また、チケットが日毎の通し券ではなく、1試合ごとに販売したものの、短時間での入れ替えに不満を感じた人は多かったのも事実だ。
「あれはよくなかったですね。集客的には我々のリソースの問題もあり、厳しい結果に終わってしまいました」とは、楽天スポーツ関係者。来年以降は単価が少し上がったとしても、2試合続けて見られるというお得感のある価格設定にしたほうが集客しやすくなるはずだ。
楽天スポーツは、インターネットやソーシャルメディアを通じて積極的な告知を行っていた。しかし、出場した海外の大学が日本でほとんど知られていなかったのは、集客に苦戦した大きな理由の一つ。筆者は試合を中継したJ SPORTSに全チームの資料を作成したが、情報の収集でかなり苦戦を強いられた。東海大以外がどんなチームで、だれが中心選手として注目されているかなど、大会に興味を持って来れそうな人に向けた情報の提供は、来年の開催に向けてより力を入れる必要があるだろう。
集客増の可能性を秘めているNCAAに所属する大学の参加
来年以降、WUBSは参加校を増やす予定だ。「コンテンツ、ライツ(権利)としてすごく磨いていいものにしていく、それが将来的に我々だけでなく、JUBFに利益をもたらせたらという思いでやっています」と同じ関係者が語ったように、大会の認知度を高め、より盛り上がるようにするためには、やはりアメリカのNCAAディビジョン1に所属する大学の参加が欠かせないと感じる。
NBA選手となった渡邊雄太や八村塁を筆頭に、渡米してNCAAでプレーする選手たちが少しずつ増えている。もし、日本人選手のいる大学、特に富永啓生が在籍するネブラスカ大を呼ぶことができれば、マーケティングで大きなインパクトとなり、集客増につながることは十分に考えられる。
しかし、富永はこの夏に日本代表として活躍し、来年のワールドカップでメンバーになる可能性が高まりつつある。もし、日本がワールドカップでいい結果を出してパリ五輪の出場権獲得、もしくは最終予選に出場するとなった場合、富永とネブラスカ大の来日は正直なところ難しい。
では、来年NCAAディビジョン1からどの大学を参加させたらいいか? 個人的に現時点で最善だと思われる答えは、この秋から山﨑一渉が1年生として入学するラドフォード大だ。山﨑は2020年に仙台大附属明成高のウインターカップ制覇の原動力となり、昨年のU19ワールドカップでも日本代表の得点源として奮闘するなど、日本のバスケットボールファンなら知っている人も多い。
ラドフォード大はビッグ・サウスというカンファレンスに所属し、NCAAトーナメント出場が3回というチームで、昨季の成績は11勝18敗で、ディビジョン1全体で見るとレベル的には下位だ。もし、山﨑が今季から出場機会を得られるローテーション選手になれれば、勝利に大きく貢献する試合が出て来たとしても筆者は決して驚かない。
山﨑の凱旋とラドフォード大の来日を実現させるには、NCAAの規定をクリアし、承認されることが絶対条件。WUBSを価値ある大学バスケットボールの国際大会に成長させるためには、ラドフォード大に限ることなく、NCAAディビジョン1に所属するチームが毎回参加できる環境を作るべきだろう。また、NCAAディビジョン1の大学と対戦できることは、日本やアジアの大学にとって魅力的であり、成長という観点からも絶好のチャンスである。
生みの苦しみを味わいながらも、この夏になんとかWUBSの開催を実現させた楽天スポーツ。出場チーム数が増える予定の来年は、NCAAディビジョン1に所属する大学が招待され、日本の大学がチャレンジする姿を見られるなど、より質の高いゲームが見られることを楽しみにしている…。