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乾癬性関節炎患者の体重管理が重要な理由 - 専門医が解説する最新の研究結果

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【乾癬性関節炎と代謝症候群の密接な関係】

乾癬性関節炎は、乾癬患者の約20%に見られる慢性の炎症性関節疾患です。皮膚の乾癬症状に加えて、関節の痛みや腫れを引き起こし、長期的には関節の変形や機能障害につながる可能性があります。

最近の研究で、乾癬性関節炎と代謝症候群との間に強い関連があることがわかってきました。代謝症候群とは、内臓脂肪型肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症などの複数の健康問題が重なった状態を指します。

乾癬性関節炎患者さんの29〜46%が代謝症候群を合併しているというデータがあります。これは一般人口における代謝症候群の割合(12.5〜31.4%)よりもかなり高い数字です。

特に注目すべきは、乾癬性関節炎患者さんでは他の炎症性関節疾患と比べても代謝症候群の合併率が高いことです。例えば、関節リウマチや強直性脊椎炎の患者さんと比較しても、乾癬性関節炎患者さんでは高血圧や脂質異常症、肥満、糖尿病の割合が高くなっています。

【肥満が乾癬性関節炎に及ぼす影響】

肥満は乾癬性関節炎の発症リスクを高めるだけでなく、症状の悪化にも関与していることがわかっています。

脂肪組織、特に内臓脂肪は単なるエネルギー貯蔵庫ではなく、様々な炎症性物質(サイトカイン)を分泌する内分泌器官としての機能を持っています。肥満状態では、これらの炎症性物質が過剰に産生され、全身の慢性炎症状態を引き起こします。

乾癬性関節炎と肥満に共通する炎症性物質として、インターロイキン17(IL-17)やインターロイキン23(IL-23)などが挙げられます。これらは乾癬性関節炎の病態形成に重要な役割を果たしていますが、肥満者でも増加していることが確認されています。

さらに、過剰な体重は関節への物理的な負担を増加させ、炎症を悪化させる可能性もあります。

肥満は単に見た目の問題ではなく、乾癬性関節炎のような炎症性疾患の発症や進行に深く関与していることがわかります。患者さんの治療において、体重管理は非常に重要な要素の一つと言えるでしょう。

【体重減量と新しい治療アプローチの可能性】

乾癬性関節炎患者さんにおける体重減量の効果を調べた研究では、6ヶ月間の低カロリー食事療法により、疾患活動性や生活の質が有意に改善したことが報告されています。この効果は24ヶ月後も持続していました。

また、生物学的製剤による治療を受けている患者さんでも、体重減量を併用することで、最小疾患活動性(MDA)の達成率が高くなることがわかっています。体重減量の程度が大きいほど、MDA達成の可能性も高くなりました。

新しい治療アプローチとして注目されているのが、糖尿病や肥満の治療薬として使用されているGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬です。これらの薬剤は体重減少や代謝改善効果があるため、乾癬性関節炎患者さんの治療にも応用できる可能性があります。

特にGLP-1受容体作動薬のセマグルチドは、肥満症や2型糖尿病がない人でも、心血管イベントのリスクを低下させることが大規模臨床試験で示されています。乾癬性関節炎患者さんにおける有効性と安全性については、今後の研究結果が待たれるところです。

乾癬性関節炎の治療においては、関節炎に対する薬物療法だけでなく、代謝異常の改善にも焦点を当てた総合的なアプローチが重要です。食事療法や運動療法、必要に応じて減量薬の使用など、個々の患者さんに合わせた治療戦略を立てることが求められます。

皮膚症状を伴う乾癬性関節炎患者さんでは、皮膚科と整形外科や内科など、複数の診療科が連携して治療にあたることが理想的です。特に、代謝症候群を合併している場合は、内科医との協力が欠かせません。

乾癬性関節炎と代謝異常の関連性についての理解が深まることで、今後さらに効果的な治療法が開発されることが期待されます。患者さん一人一人の状態に合わせた、きめ細やかな治療アプローチが可能になるでしょう。

参考文献:

1. Williams JC, Hum RM, Rogers K, et al. Metabolic syndrome and psoriatic arthritis: the role of weight loss as a disease-modifying therapy. Ther Adv Musculoskelet Dis. 2024;16:1-15. doi:10.1177/1759720X241271886

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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