新元号「令和」の心理学:REIWAのRの意味と希望と新しい一歩のために
<「令和」は、漢字の意味も、音の響きからも、「良いチャンスだから、みんなでスタートだ!」だと思う。:新元号「令和」を心理学で解説。みんなで、新しい一歩を>
■新しい元号「令和」(れいわ)
新しい元号が今日4月1日に発表されました。5月1日から使われます。新しい時代の始まりです(と言う人もいます)。実を言えば、新元号になったからといって新しい時代になるわけではないのですが、そのような気持ちになることは事実でしょう。政府もマスメディアも、「新しい時代」を強調しています。株価も大きく上昇しています。
考えてみれば、新年も、21世紀も、その日に世界が変わるわけではないのですが、気持ちは変わります。時代の表記が変わることで、気持ちが変わり、気持ちが変われば行動が変わり、実際に社会が変わっていくこともあるでしょう。
人間は、だらだらと時間が過ぎていくことに我慢ができません。「時間の構造化」をしたいのです。映画などでは、無人島に流れ着いた主人公が島での日数を数える場面がでてきますが、これも時間の構造化の一種でしょう。
本当は、充実した素晴らしい時間を過ごすことで時間の構造化をしたいのですが、それは簡単なことではなく、カレンダーが変わるだけでも、何か新しいことが始まったと感じたいのが人間です。
新しい始まり。確かに良い気分です。何かを始めようというやる気が高まります。新しい時代と感じること、世の中のその雰囲気が、行動を起こす良いチャンスになるでしょう。
■「令和」の意味
元号はこれまで中国の古典から作られていましたが、今回は日本の万葉集から作られました。
万葉集は、天皇や貴族から下級の役人、防人など幅広いさまざまな身分の人が詠んだ歌が集められています。身分に関わらずという点が、ちょっと庶民的で平等な感じがしますね。万葉集は、やわらかいイメージがあり、みんなが手を取り合うようなイメージがあるでしょう。
新元号「令和」のもとになったのは、次の歌です。
『万葉集』巻五 梅花の歌
「「初春の令月にして、気淑(よ)く風和(やわら)ぎ、梅は鏡前の粉(こ)を披(ひら)き、蘭は珮後(はいご)の香(こう)を薫(かおら)す」
時は初春の良き月、空気は良く風もおだやかで、梅は鏡の前で装うように白く咲き、蘭は身につけた香のように香っている、といった意味です。
何だが心が優しくなるような歌ですね。
令月は、2月の別名であり、同時に「何事をするにもよい月。めでたい月。」を意味しています。
総理は、
「明日への希望と共に、それぞれの花を大きく咲かせることができる願いをこめて」「希望に満ちた新しい時代」と記者会見で語っています。
■「令和」れいわ:音と響きの心理学
令和(れいわ)の「れ」。らりるれろ、Rの音は、新しい感じがします。舌をはじいて音を出すので、ポップな感じです。
Rの音は、理性的、哲学的、リズム感、継続性、透明感の感覚をもった音とも言われています(黒川 伊保子「怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか」新潮新書)。
「れ」は、RでもLでも良いのでしょうが、今回の令和では、Rを使うそうです。同書によれば、RとLは感覚的には同じですが、Rの方が、強く舌をはじくので、強い音、重い感じがします。元号にはRの方がふさわしいでしょう。またRは、きれいな音ともされています。
同書によれば、令和(れいわ)の「い」は、「まっすぐ意識的に突き進む音」とされています。口を少し狭くして横に開いて出す「い」は、きりりとしたイメージをかもし出します。
令和(れいわ)の「わ」は、存在感のある雲のようなものとされています。「和」「わ」は、感じの意味も、音の響きも、やさしく、おだやかで、それでいて包容力のある感じを人々に与えます。
■希望とスタート
令和は、「穏やかで幸福な世が始まること」を祈念する元号とされています。
心理学の研究によれば、幸福感は贅沢ではなく日常生活から生まれます。毎日元気に働いたり学んだり、人に感謝し、親切にし、良い人間関係の中で人と比較せず、人を許し、目標を目指し、人生を深く味わうことが、幸福を生みます。
しかし、この平凡だけれどもおだやかで幸福な生活が壊れることがあります。そんなときこそ必要なのは「希望」です。幸福は安定から生まれますが、希望は変化から生まれます。希望は、悲しみの涙から、苦しみのうめきから生まれるのです( ローレン・トンプソン「きぼう こころひらくとき」ほるぷ出版)。
希望学の研究によれば、希望は新しい大切な何かを見つけ、そこに近づく方法を知り、みんなと一緒に一歩を踏み出したときに生まれます(玄田 有史 「希望のつくり方」岩波新書)。
戦後の日本は、奇跡の復興と成長を遂げてきました。しかし同時に、失ったものもあるでしょう。いくつもの大災害も経験してきました。日本は経済的豊かさの割には、幸福感の低い国です。格差の時代といわれ、寛容さを失っているとも言われています。成熟社会になって、若者もやる気を失ってしまったと指摘する人もいます。
日本の子供若者は、全てを持っているが、ただ希望だけがないと語る人もいます(村上龍「希望の国のエクソダス」文藝春秋)。
心理学の研究によれば、人は、目標に向ってみんなで自発的に進んでいくときに、幸福感を持ちます。目標は、他者との比較ではなく、各自が持つものです。「それぞれの花を大きく咲かせる」「世界に一つだけの花」です。ただこれが、前に進むことをあきらめた、無気力な態度になっては、幸福は生まれません。
ドラッガーは、「各自の強みを見つけなさい。そしてその強みを、みんなのためにどう活用できるかを考えなさい」と語っていますが、それが組織の発展につながり、個人の幸福になっていきます。
総理は記者会見で「精神的一体感」とも語っています。これが、戦争中のような多様な意見を認めない態度になっては困ります。でも、本当の一体感は、多様な人々が互いに敬愛しあい、協力しあうことでしょう。
「人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つという意味が込められている」と総理も語っているように、その多様性の中でこそ、素晴らしい文化が生まれるはずです。
令和の「和」の意味は、 仲良くする、争わないという意味があり、また声を合わせる、調子を合わせるという意味もあります。「和音」の和ですね。みんで同じ音を出せば不協和音は出ませんが、みんなで違う音を出して作られる和音の方が、ずっと深みと美しさがあるでしょう。
多様で複雑で難しい時代ですけれども、「令和」の元号のように、みんなで新しい目標に向って歩めたらと思います。一人ひとりの幸せのために。世界の平和のために。