「ポケモンパン」韓国で歴史的大人気 1日平均23万個販売 「ズルして買ってる」怒りの通報も
「ただのパンではなく、思い出を買っている。そうも言えそうですね」
3月2日の韓国地上波「SBS」ニュースキャスターが関連の話題をこうまとめた。
韓国で「ポケモンパン」が異例の大ブームとなっている。日本発のキャラクター「ポケモン」のライセンス商品だ。
SPCサムリプというメーカーが国内での販売ライセンスを取得し、今年2月23日にまずは7種類が発売となった。価格帯は1500ウォン(約155円)。
2月24日から流通後、4月5日の時点(発売後40日)で950万個を販売。1日平均23万個、同社の他製品と比べて6倍のスピードで売れているという。
現地のコンビニでは品薄状態が続き、大型マートでも発売日には早朝から行列が出来る状態。一人あたりの購入数も制限がつけられているという。生産側も工場を24時間フル稼働させているが、需要に追いつかない状態。国内最大の経済紙「毎日経済」は4月22日にこう報じている。
「ポケモンパン、1分で売り切れ…(ECサイト大手)CJオンスタイル、来月には1000セット追加販売」
- 大型マートでの開店前からの行列ぶりを報じる「韓国経済TV」
人気の理由は「レトロブーム」
なぜ人気なのか。
付録のステッカーの魅力だ。計160種類以上があるという。
「YTN」の取材に応じた現地の30代男性が言う。
「子供の頃に集めたものを今、もう一回集めているんですよ。あの時は思い通りに買えなかったものを、今、好きなように買えるという快感があるんですよね」
- シールを全種類集めた、とする男性の動画。300万近いアクセス数を記録している
つまりは20代~40代を対象とした「レトロブーム」でもある。
韓国での「ポケモンパン」、元祖は1998年に発売されたものだ。当時もシールが大きな話題となり、最高で月500万個を売り上げた大ヒット商品となった。幾度かリニューアルがあり、今回は「2006年以来16年ぶり」の登場となっている。2022年版の商品コピーも「帰ってきたポケモンパン」だ。
- 90年代末の関連映像。この頃子どもだった世代が、2022年には20代から40代に
そもそも韓国でのポケモン人気は世界の他国と同じく、かなりのものだ。2000年代中盤には、アニメながらに全国視聴率33%を記録したこともある。その人気ぶりは、韓国語を少し変えてしまうほど。「ピカチュー」からくる「ピカピカ」が日本語のままでそのまま「光る様子を表す」単語として通じるようになっている。
- 「帰ってきたポケモンパン(2022年版)」のプロモーション動画
どうしても欲しい!「女の子がトラックに乗って…」
これを巡って、韓国メディアではじつに10もの"事件"が報じられている。
- セクハラ事件
- 流通業者の納品直後の商品引っこ抜き
- 捨てられるパン
- 抱き合わせ商法・ヤミ取引
- ポケモンパン中毒女性事件
- コンビニのアルバイト・店長と消費者間のいざこざ
- 買い占め事件
- 転売ヤー
- ウソの在庫情報による「ECサイトへのいいね!お願い事件」
- 製造元 SPCサンリプによる謝罪文
2番の「流通業者の納品直後の商品引っこ抜き」が現地での熱狂ぶりを物語るにあたり、象徴的だ。
事はポケモンパンをなんとか購入しようと近所のコンビニに通っていた30代男性からの通報によって発覚した。
「今日こそはポケモンパンが入荷するかも」と通っていた30代の男性。
早朝にコンビニ搬入用のトラックを見つけた。
「買える」
そう思った。しかし、自分の手前で女の子が買っていった。
翌日も同じ時間に行くと…思った通りトラックが駐車してある。すぐに店に入った。
- 出来事を報じる「SBS」
しかし…また売り切れだという。見ると店内で同じ女の子が手にしていた。不審に思い、店員に聞いた。
「彼女はいくつ買っていったんですか?」
「全部ですよ」
この男性はポケモンパン欲しさに、近所のコンビニをいくつも回っていたが…どこに行っても同じ女の子を見かける。じーっと観察していたら、なんと「納品用のトラックに乗り込んでいたんです」。
男性はコンビニチェーンの本部に通報。するとこんな調査結果が帰ってきたという。
「該当の女性は、運搬の委託業者のドライバーの姪でした」
やっぱりおかしいなと思った。そう通報した男性はいう。
「彼女は搬入直後のポケモンパンを買っては、叔父のトラックに乗って、ということを繰り返していたということなんですよ」
運転手には会社側から2ヶ月の減俸処分が下されたという。
「不買運動どうなった?」もいいが… ヒットのもう一つの要因は?
こうやって韓国で日本のものが流行ると「不買運動はどうなったの?」と日本では伝えられがちだ。確かに韓国でもそういった声がある。
「毎日経済」が4月11日に「ポケモンパンを買うと日本にロイヤルティが行くというが…事実は?」という記事を掲載した。同紙は確かに小額ながらに支払われる、としている。いっぽうで「2021年から不買運動は冷めてきている」とも。消費者はそういった点よりも「幼き日の思い出」「コロナの日々での小さな楽しみ」を需要視するのだと。
そういった分析は別の機会に。ここでは"事件"が起きるほどの熱狂的人気の背景の紹介をもう一つ。
そこにはメーカーであるSPCサンリプの意図があるのではないか、という"疑い"が生じている。
- ヒット理由の分析を伝える「YTN」
わざと生産量を増やさない。パンの製造体制を強化しての増産に応じようとしないのだという。7日にカップケーキを追加販売したが、これはパンとは違う製造ラインの商品だ。
これによって「なかなか買えない」という状態が出来上がっている。17日のYTNに出演した仁荷大学消費者学科のイ・ウニ教授はこうコメントしている。
「企業は消費者の口コミに一番期待をしています。そういった観点から見ると、生産量を増やし、この話題が早くに終わってしまうことより、供給量のコントロールを行い…」
同社は3月18日に供給が追いつかないことに対する謝罪文を掲載。24時間体制で工場設備を稼働させているが消費者の期待に応えられていない、と。
ただし設備拡張をしてまでも増産しようとは考えていない。同社は現地メディアに対し「ポケモンパンは全売上の10%。そこにまでは値しない」と話している。
なんでも韓国では近年の「大ヒットフード」により、結局はメーカー側が"痛い目"に遭っているようで…。
2011年にラーメン市場で大ヒットとなった「ココ麺」は、「白 いスープ」が話題を呼んだ。韓国ヤクルト社系の食品メーカー「サムファ」は新参者ながら一気に市場で3位に入る立場を確立。メーカー側は500億ウォン(約50億ウォン)の投資を行って生産設備の強化を行った。
しかし、その後…2012年1月から「ココ麺」の人気が急落。売上が前月の半分にまで落ちた。結局会社は大ブームにもかかわらず大損をしたのだという。
その後、2014年にヒットした「ハニーバターチップス」もかなり増産には気を払ったものの「人気の低下は避けられなかった」(SBS)。
こういった事例もあり、「メーカーの立場として生産を増やすことを躊躇しうる」としながら、今回のポケモンパンの「SPCサンリプ」は「消費者心理を利用しているという指摘にはかなりの負担を感じるだろう」としている。
「すぐに買える」と思ったら、もう関心が無くなってしまう。これもまた消費者心理か。
(了)
参考 韓国で発売中の「ポケモンパン2022」
帰ってきたゴース チョコケーキ
帰ってくたロケット団 チョコロール
ヒトカゲのヒラヒラ ホットソースパン
ゼニガメの甘くてカリカリ コブキパン
ピカピカしっとり チーズケーキ
プリンのふわふわいちごクリームパン
ディグダのいちごカスタードパン
追加4種
プリンのピチピチシュー(クリーム)
ピカピカあんバターサンド
ピカチューのマンゴーカップケーキ
ニョロモのミルクくるくるパン