Yahoo!ニュース

がん検診の受診率は低い。受けない理由は「心配ならばいつでも受診できるから」

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
エコー検査をする看護師(写真:イメージマート)

がん検診受診率は4割台。若年層ほど低い傾向

今や日本で最大の死因として挙げられる「がん(悪性新生物)」。検診を受けることで発症を自覚し、適切な対処を取ることができ、リスクを確実に減らせるのだが、がん検診の受診率は低い水準にある。その理由は何だろうか。内閣府大臣官房政府広報室が2023年11月に発表した「がん対策に関する世論調査」(※)から確認していく。

今調査ではがんの対象を特定せず、単にがん検診に関して受診をしたか否かを尋ねている(一応具体例として「胃の内視鏡検査やマンモグラフィ撮影などによるがん検診」と表現しているが、具体的設問では「がん検診を受けたことがあるか」と表現されている)。その結果としては、4割台が2年以内に受診したと回答した。最後に受診したのが2年前より前の人が2割強、そしてまだ一度も受診していない人も1/3強に達している。

↑ がん検診受診状況(属性別)(2023年7月)
↑ がん検診受診状況(属性別)(2023年7月)

女性特有の検診となる「子宮がん」「乳がん」の検診は基本的に2年おきに実施するものだが、それ以外の部位では毎年行うのが望ましいため、男女ともに「1年以内に受診」の回答が本来ならばあるべき回答。しかしながら該当者は5割にすら満たない。男女別では女性の方が検診状況は進んでいる。「子宮がん」「乳がん」の点で男性以上にがんに対する認識が強くなければならない女性の方が高くなるべきで、この点では納得のいく値ではある。

18-29歳の年齢層では「無し」の回答が極めて多いが、これは学生なども含まれており、仕方がない面もある。しかし就業者ならば法定健診に含まれる場合もあり、そうでなくとも自治体などによって安価にて検診の機会は提供されることから、当事者の検診意識が低いと見ることもできる。また国によるがん検診の指針が子宮頸がんは20歳以上だが、肺がん・乳がん・大腸がんは40歳以上、胃がんは50歳以上となっているのも一因だろう。もっとも後述する理由からは「時間がない」との回答が多数を占めており、時間を確保する工夫を仕組みとして提供することが、若年層の検診率向上につながるものと考えられる。

40~60代は検診状況にあまり変わりはない。がんを自らにも生じるかもしれないものとして真剣に認識するからだろう。また国の指針によるところも大きい。しかし見方を変えれば40代でも3割強、50代以降でも2割台は過去に一度もがん検診をしていない人が存在することになる。恐らくは以前に受けてそれきりの人も40代で1割台後半、50代以降でも2割台が確認できる。

がん検診を受けない、その理由

それではなぜがん検診をしないのか。検診状況で「2年超前に受診」「無し」の回答者にその理由を尋ねたところ、もっとも多くの人が同意を示したのは「心配な時にはいつでも医療機関を受診できるから」だった。23.9%が「心配な時にはいつでも医療機関を受診できる(ので、今は心配ないから)」検診をしないと回答している。

↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答)(2023年7月)
↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答)(2023年7月)

トップの「心配な時にはいつでも医療機関を受診できるから」は、第4位の「健康状態に自信があり必要性を感じないから」とほぼ同じ意味と考えられる。今項目は受診していない人に答えてもらっており、つまりは「今は心配していない、つまり自分はがん罹患の可能性はないと考えている)から受診していない」となるからである。がんを罹患するのは何らかの形で体にトラブルが生じた結果であるとの認識なのか、あるいは健康体、若いうちには発症することはないとの考えによるものだろう。実際には自覚症状としては健康体そのものでも、がんを発症している可能性はゼロとは言えないので、思い過ごしでしかないのだが。

第2位は「費用がかかり経済的にも負担になるから」で23.2%。多数の部位をくまなく検診すると数千円の負担が生じ、検査場所までの交通費も合わせると少額とは言い難い。しかしこれは各種医療制度(例えば年一回の公的な医療検査)を活用することで、最低限の金額に留めることができる。

第3位は「受ける時間がないから」。がん検診は対象となるがんの部位毎に受けねばならない。また、医療機関によっては一度に複数部位の検診はできず、複数部位の検査をしたい場合には時間・場所を変えて行う必要がある。たとえ検診の時間そのものが待機時間も含め数時間で済むとしても、平日仕事をしている人には各部位の検診毎に半日・一日の休みの確保が求められる。当然「受ける時間がない」と回答する人が多いのも納得できる。

「がんであると分かるのが怖いから」は16.2%。多分に因果関係の誤認によるもので、「検診したからがんを罹患する」のではなく「元々発症していた人が検査で確認できる」に過ぎない。放っておけば勝手に治癒する事例はないに等しく、いわば虫歯と同じようなもの。単なる怖さからの逃げは、現実逃避でしかない。

がんの治療は何よりもがんそのものの発見が最重要課題。万一のことを考えれば、今件の上位回答におけるマイナス部分など、比較にもならないほどの小ささでしかない。また過度の自信でリスクを上乗せするのは愚行でしかない。面倒だと思わずに、定期的な検診をお勧めする。

■関連記事:

【主要死因別に見た死亡率(1899年以降版)(最新)】

【もし仮に「がん」になったら受ける治療、女性は医師より自分を信じる】

※がん対策に関する世論調査

2023年7月6日から8月13日にかけて、層化2段無作為抽出法によって選ばれた全国18歳以上の日本国籍を持つ人に対し、郵送式にて行われたもので、有効回答数は1626人。男女比は714対912、世代構成比は18~19歳23人・20代114人・30代176人・40代262人・50代280人・60代284人・70歳以上487人。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事