乙女たちの熱い夏! プラカード女子高校生選考会
連日、熱戦が続く全国の地方大会。今週末には49地区、すべてで開幕する。夏の甲子園を目指すのは球児だけではない。代表校の校名プラカードを持って先導するのが女子高校生だということは、ご存じだろう。先導するのは、甲子園の地元・兵庫県西宮市立西宮高校の生徒たち(タイトル写真)で、現在は2年生が、大役を担っている。その選考会(オーディション)が、11日に同校の体育館で行われた。
青春の1ページ飾る伝統行事
市西宮の生徒がプラカードを持つようになったのは1949(昭和24)年からで、当時の校名は建石高だった。70年の歴史がある伝統行事で、祖母から3代続けて、という例もあるくらいだ。今では全国的にも珍しくなった濃紺のジャンパースカート姿も長く受け継がれている。昨年、100回大会の記念始球式で往年の大打者・中西太氏(86)が登場。中西氏が主将で出場した時、高松一(香川)のプラカードを持った女性がそれを知って、アポなしで奈良県から駆けつける「感激の再会」もあった。大半が、一期一会かと思いきや、プラカードを持った生徒はそのチームを最後まで応援するのが習わしで、プラカードをきっかけに球児と結婚した生徒もいる。この夏の出会いは、青春の1ページを飾る美しい記憶としていつまでも残る。つまり、プラカードを持って行進できる彼女たちは、全国の高校生から、羨望のまなざしを向けられているはずだ。
競争率1.6倍超の狭き門
したがって、「プラカードを持ちたい」と思って同校に進学した生徒はかなり多い。
この日の選考会には、2年生137人中106人が応募した。以前は3年生が受け持っていたが、現在、同校は西宮市内の公立校でトップの進学成績を誇り、貴重な夏休み中のこの行事は、受験勉強に影響が大きいとして、2年生が担当するようになった。今回は、抽選会のアシスト役の4人も含めて65人が「合格」となり、競争率1.63倍とかなりの狭き門だ。抽選会に当たった生徒は大観衆の前で行進できないが、名前を紹介してもらえる上、テレビ中継まである。選考会当日は、高校生活の中でもかなり重要な一日とあって、昼食も喉を通らなかった生徒もいたようだ。いつもは笑顔を絶やさずにぎやかな彼女たちも、この日ばかりは皆、ライバル。一様に押し黙ったまま、体育館に集合した。
ポイントは姿勢とリズム感
生徒の前では、青石尚子教諭が、「すべての日で、欠席、遅刻、早退は認められません」と、伝統行事であることを自覚させるように注意を与えた。
8月は校内練習と抽選会、リハーサルなどで、6日の開幕までほぼ休みなしの強行軍になる。いよいよ審査が始まる。生徒たちは、1番から106番までの大きな番号札を腰につけて所定の場所に並んだ。審査を担当するのは、指導歴20年超の青石教諭を含む、同校の7人の体育の先生たちだ。
一人ずつ、等間隔でプラカードに見立てた竹の棒を持って歩く。館内に、選手権の入場行進曲が流れると、一人また一人と、緊張した表情で体育館を一周した。素人の筆者には全くわからないが、アーティスティックスイミング(シンクロ)の日本選手権で優勝経験のある青石教諭は、「歩く姿勢とリズム感」を一瞬で見抜き、厳しいチェックを入れる。また、生徒たちをすべて通し番号で審査するのは、特別の配慮ができないようにするためで、そのことは審査の前に念押しされていた。
野球部マネージャーも挑戦
全員が歩き終わっても、生徒たちの緊張は解けない。青石教諭が、「このあとテレビや新聞の取材があります。名前や顔が出てもいい人は残って。どこの社がいますか」と言うと、それに呼応して各社が挙手し、筆者も「毎日放送です」と答えた。これですっかり場が和み、多くの生徒に笑顔が戻った。
残った生徒の中には、野球部のマネージャーが二人。山本真子さん(17)は、「小学生の時は少年野球のチームに入っていました」というくらいの野球好き。一方の松下采由(あゆ)さん(16)は、「少林寺拳法の全国大会に出たことがあります。ゴルフもやっていました」というスポーツウーマン。それでも「甲子園でプラカードを持ちたくて市西(いちにし=地元ではそう呼ばれている)を志望しました」と口を揃えた。
甲子園で『いちにし』のプラカードを
同校野球部は、1963(昭和38)年春から3大会連続で甲子園に出場した伝統校でもある。一昨年には、山本拓実投手(19)が中日からドラフト指名されるなど、名門復活の兆しも見える。今春は県の16強に残り、Aシードとなった今夏は、初戦(2回戦)で報徳学園と当たる不運。二人とも、「報徳に絶対勝って、明石商にも勝って、甲子園で『いちにし』のプラカードを持ちたい」とキッパリ。ただし、先述のように野球部マネージャーだからと言って受かる保証はどこにもなく、「落ちたらどうしよう」(松下さん)と揺れる乙女心も垣間見えた。「また、甲子園で会いましょう」と言って別れたが、「しまった」と後悔している。彼女たちの願いはチームが甲子園に出ることだからだ。そう、彼女たちの熱い夏は、まだ始まったばかりだ。