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アーティストとプロスポーツの協働は、何をもたらしたのか。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ファンにとって、スポーツのナマ観戦は、一試合一試合が記憶に残る大切な思い出だ。だから、その試合でしか手に入らないパンフレットや、チケットの半券を大事に取っておく。 

 対戦相手や出場選手は同じでも、全く同じ内容の試合は2度とない。1度限りのものだ。

 北米プロサッカーリーグMLS(メジャーリーグサッカー)のいくつかのチームは、 このようなファン心理を把握し、ユニークなアートプロジェクトを展開している。

 地域のアーティストたちが、ホームでの試合ごとにポスターを制作。同じ試合は2度とないように、これらのポスターも試合ごとにちがう。ホームタウンのアーティストたちがそれぞれの個性を発揮して、チーム愛にあふれたアートを見せている。手に入れて、家に飾りたい気持ちをそそる。

 MLSでゲームデーのポスターを制作しているのは、LA・ギャラクシー、レアル・ソルトレーク、ニューヨーク・レッドブルズ、シアトル・サウンダーズ、オーランド・シティSCなどだ。

 プロバスケットボールのNBAでも、MLSの手法を取り入れるチームが出てきた。ポートランド、トレイルブレーザーズだ。本拠地での試合のたびに、異なるアーティストがそれぞれのポスターを制作している。

 トレイルブレーザーズは地元のアーティストたちに、ポスター制作を委託する形をとっている。相手チームのロゴを使用しない、暴力的な内容にしない、などいくつかの規則があるが、その他は自由で、地域の各アーティストたちが腕をふるう。

 トレイルブレーザーズのポスターは、毎試合限定で100枚だけ販売されている。購入できるのは、試合会場だけ。販売価格は12ドルだが、売り上げの半分はチームの慈善事業の基金に充てられる。

 限定100枚で購入できるのは試合会場だけ、となれば、どんなことが起こるのか。お客さんは、お目当てのポスターを手に入れようと、早めに試合会場にやってくる。ポスターを購入しようと早めに会場にやってきたお客さんは、試合開始までの間に場内を見て回る。12月15日付のニューヨークタイムズ電子版は、飲食品やグッズの購入が期待できる、というチーム関係者のコメントを掲載している。

 なかには、ポスターのコレクターになるファンも出てくる。確実にポスターを手に入れるためには、まず、確実に入場券を手に入れなければいけない。だから、シーズンチケットの購入に結びつくことも期待できる。

 アーティスト側にとっても、メリットがある。多くの人が訪れる試合会場でのポスター販売は、自身の作品を知ってもらうには絶好の機会。同じ地域に住みながら、知らなかったアーティストとも、ポスター制作を通じて、つながりを得られる。スポーツチームを媒介にして、アーティストはコミュニティを作ることができる。

 (ただし、100枚を売り切っても売上は1200ドル。半分はチャリティへ寄付され、チームの取り分もあるので、アーティストへの報酬が300ドルほどしかない、という批判もある)

 どのようなポスターが制作販売されているのか、興味のある方は、ここをクリックしていただきたい。私は一通り見ただけで、すでに収集したい気分になっている。

 

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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