【宝塚市】9月14日開幕! 宝塚市ゆかりのアーティストを紹介する展覧会に世界的な彫刻家が登場
宝塚市立文化芸術センターさんで年に1度開催される『Made in Takarazuka』シリーズは、宝塚市在住のGreat Artistを紹介する人気の企画展です。最終回を迎える今年は、世界的彫刻家・小清水漸さんが登場します。戦後日本美術史で重要な位置を占める「もの派」としてのはじまりから現在まで、半世紀以上にわたる創作活動をたどる回顧展。シンプルで日本人の感性に馴染む作品たちが、観る者の心にじわりと沁みてきます。
「アートなまち宝塚」の可能性を探る意欲的な『Made in Takarazuka』シリーズ
歌劇や温泉で知られる宝塚市ですが、多くの優れた美術家が宝塚を拠点に活動しているのをご存じでしょうか。5年前、宝塚市立文化芸術センターの館長であり、現代美術評論家でもある加藤義夫さんは、そうした土壌を踏まえて宝塚市内のアーティストにスポットをあて、アートにおける宝塚の可能性を探る『Made in Takarazuka』のシリーズ展(全5回)を企画しました。
同時代を生きる美術家たちの作品に触れることで、感性を育み豊かな暮らしにつなげて欲しい、との思いが込められたこのシリーズ。センターが開館した2020年の第1回を皮切りに、洋画家から建築家まで多彩なラインナップを取り揃え、これまで年1回のペースで開催されてきました。
そして現在、最終回を締めくくるにふさわしい「Great中のGreat」(加藤館長談)の現代彫刻家・小清水漸(こしみず すすむ)さんの回顧展 Made in Takarazuka シリーズ vol.5「小清水漸の彫刻 1969~2024・雲のひまの舟」(2024年9月14日(土)~10月15日(火))が開催中です。
素材を通して世界をみつめる「もの派」の作家たち
小清水さんは1944年に愛媛県の宇和島で生まれました。少年時代は、ポケットのなかに「肥後守(ひごのかみ)」と呼ばれる折り畳み式ナイフがいつも入っていて、かまぼこの板や木の枝で舟などをつくるのが好きだった(『ウィズたからづか』2019年3月号インタビュー)そう。中学生時代に東京へ転居後、多摩美術大学に進学し、1960年代から70年代にかけて「もの派」の中心的アーティストとして活動をはじめました。1973年に東京から関西へ拠点を移し、現在は宝塚市在住です。
「もの派」は、戦後日本美術史で重要な位置を占める作家たちの動向です。作品を完結したものではなく自己と世界の出会いの場と考え、石、木、鉄などの物質をなるべくそのままの形で使った作品を制作し、ものの存在を通して世界をとらえようとしました。
小清水さんは1969年に大きな御影石を和紙で包んだ作品「かみ」を発表後、ヴェネチア・ヴィエンナーレなど多数の展覧会に参加して国内外で高い評価を受け、また2004年には紫綬褒章を受章するなど、現代日本を代表する彫刻家です。
自然の色やかたちと人工的な造形による哲学的コラボレーション
小清水さんの作品は、素材への加工が最小限であるため、結果として観る者は物質自体がもつ色やかたちに注目することになります。
重力を目に見える形で表現した『垂線』を出発点に、さまざまな素材を使った表現を模索していくことで、小清水さんの彫刻世界は大きく広がりました。本展覧会では、小清水ワールドの広がりを見渡せるよう、「表面から表面へ」をはじめとする6つのシリーズが展示されています。
色も物質としてとらえる
この日は、すこしだけ小清水さんにお話しをうかがうことができました。
紙一面に色が塗りこめられた作品がどのように描かれたのか、気になったので尋ねたら、
「子供が使うようなクレパスを、1本まるまる無くなるまで、ひたすら塗り続けるんです」
という答えが返ってきました。紙が破り取られた作品は、まず紙の一部を破き、そこで生まれたラインを出発点に塗り広げていくのだそう。
「僕は、(この作品は)絵画ではなく、ケント紙とクレパスをつかった彫刻だと思っているんです」
と小清水さん。
塗るという「からだの動き」を通して、ひとつの色がケント紙上に軌跡を刻み込む。そうして色や紙と向き合うのだと教えてくれました。深いバリトンで、ゆったりと言葉を探しながら感覚を再現する小清水さんのからだは、その動き自体が音楽的な美しさを持っています。
「辰砂(しんしゃ)」や「美群青」など、古来日本画では鉱物を原料とした顔料を使用してきました。小清水さんはそうした色たちも、この世に存在する「物質」として扱います。
表面を持つことで外界から切り離され、かたちとして浮かび上がった物質の存在そのものの美しさに注目する。小清水さんが紡ぐ作品には、潔さ(いさぎよさ)と清冽さ(せいれつさ)があります。それでも観る者が突き放されずに、温もりや郷愁すら感じるのは、たとえば作業台シリーズに、『アリアドネのテーブルクロス』や『天手力男命(あめのたぢからおのかみ)の机』といった神話にインスパイアされた作品名がつけられるなど、人間の歴史や風土に対する感性があるからです。
- 天手力男命:天岩戸(あまのいわと)の中に閉じこもったアマテラスを外の世界に引きずり出したと言われる力自慢の神。
- アリアドネ:ギリシャ神話に登場するクレタ島の王女。怪物退治に迷宮へ入るテセウスに脱出用の糸を与えたことから、「アリアドネの糸」は、難問解決の道しるべの意味で使われる。
屋上庭園ではガラス球を使ったインスタレーションも展示
本展覧会では、2階メインギャラリーのほかに、屋上庭園でインスタレーション作品を観ることができます。
こちらは神戸開港150年記念「港都KOBE芸術祭(2017年)で展示された作品を「宝塚バージョン」として新たに発表されたもの。
開館中は誰でも自由に鑑賞できるそう(18時まで)。来館の際は、忘れずに要チェックです。
同時代作家・小清水さんの「いま」に触れるチャンス
本展覧会とあわせて、9月23日(月・祝)には小清水さんと加藤館長が対談する「パートナーズサロン」(パートナー会員限定)、10月5日(土)には、小清水さんが登壇するアーティストトークのイベントが開催されます。
より深く作品について知りたい方は、作家本人から話が聞けるチャンス。詳細はホームページでご確認ください。
いかがでしたか。シンプルで親しみやすく、けれど哲学的な深みを感じさせる小清水作品。間近で観られる貴重な機会に、足を運んでみませんか。
展覧会情報
Made in Takarazukaシリーズ Vol.5
「小清水漸の彫刻 1969~2024・雲のひまの舟」
■ 会期:2024年9月14日(土)~10月15日(火)
■ 会場:宝塚市立文化芸術センター 2階メインギャラリー(有料)&屋上庭園(無料)
(〒665-0844 兵庫県宝塚市武庫川町7-64)
■ 開館時間:10時~18時(入場は17時30分まで)
■ 休館日:毎週水曜日
■ メインギャラリー観覧料:一般 1,000円
※中学生以下無料
※障がい者手帳提示でご本人様と付添の方1名まで無料
※2024年度パートナー特典対象
■ お問合せ:TEL 0797-62-6800
■ 公式ホームページ
イベント情報
パートナーズサロン(事前申込制)
≪対談≫小清水漸、加藤義夫
■日時:9月23日(月・祝)14時~15時30分
■会場:1階キューブホール
アーティストトーク
■日時:10月5日(土)14時~15時
■会場:庭園内ガーデンハウス
※当日10時より展覧会入場受付にて整理券配布(2024年度パートナー会員証、または当日の入場券が必要です)