バルセロナ守護神が抱く誇り。最後尾の重圧とテア・シュテーゲンの決断力。
バルセロナで守護神を務めるのは、簡単ではない。
バルセロナのGKに必要なのはセービングの能力だけではない。後方からボールを繋ぐ、ビルドアップへの参加が求められる。足元の技術とキックの精度がなければ、務まらないポジションなのだ。
「ペップ・チーム」の愛称で親しまれるジョゼップ・グアルディオラ監督が率いたバルセロナで、正守護神に据えられたのはビクトール・バルデスだった。だがバルセロナのカンテラーノでありながら、V・バルデスがシャビ・エルナンデスやカルレス・プジョールのように高い評価を得ることは最後までなかった。
勇敢で、大胆にプレーしなければいけない。それでいて、ミスをすれば即失点につながるという損な役回りだ。事実、4年間で14個のタイトルを獲得したペップ・チームにおいてさえ、V・バルデスへの批判は絶えなかった。
■スビサレッタの慧眼
「エル・ドリームチーム」と称されたヨハン・クライフのバルセロナにおいて、GKを務めたのはアンドニ・スビサレッタだ。そのスビサレッタがバルセロナがスポーツディレクターとして補強したのがテア・シュテーゲンだった。
テア・シュテーゲンは2014年夏にバルセロナに加入した。バルセロナはボルシア・メンヒェングラッドバッハに移籍金1200万ユーロ(約14億円)を支払った。ただ、V・バルデスの穴を埋めるため、バルセロナはテア・シュテーゲンとクラウディオ・ブラーボの2人のGKを同時期に獲得している。
ルイス・エンリケ当時監督はテア・シュテーゲンをチャンピオンズリーグとコパ・デル・レイで、C・ブラーボをリーガエスパニョーラで起用した。GKのポジションでローテーションを採用したのだ。だがバルセロナは2016年夏にある決断に迫られる。グアルディオラ監督がマンチェスター・シティの指揮官に就任したタイミングで、GK獲得のためのオファーが届いたのである。
テア・シュテーゲンは『Club del Deportista』のインタビューで、「移籍を考えていた」とその時を振り返っている。
「あれは忘れられない出来事だ。僕は一人の選手として、試合に出たいと思っていた。クラウディオとのポジション争いは簡単ではなかった。ルイス・エンリケと何度も話し合った。だけど、クラウディオが良いパフォーマンスを見せていたのも確かだった」
「僕は移籍の可能性を模索していた。それは否定しないよ。だけど、2シーズンが経過して、クラブは解決策を求めていた。最終的にはクラウディオを放出して、僕を選ぶという立場をとったんだ」
■守護神の価値
今季、バルセロナはテア・シュテーゲンの契約延長に向けて動いていた。テア・シュテーゲンのバルセロナとの契約は2022年夏までで、契約解除金は1億8000万ユーロ(約216億円)に設定されている。
2025年までの契約延長オファーを準備していたバルセロナだが、新型コロナウィルスの影響により、交渉は事実上凍結している。ERTE(レイオフ/一時解雇)適用、選手のサラリー70%カット等、現在のクラブ財政は非常に厳しい。その間にユヴェントス、バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・シティなどがテア・シュテーゲンの状況を注視している。
フットボールにおいては、得点を奪う選手が評価される傾向がある。対してGKは軽視されがちだ。
2018年夏にケパ・アリサバラガ(チェルシー/契約解除金8000万ユーロ)、アリソン・ベッカー(リヴァプール/移籍金7300万ユーロ)の移籍でGK史上最高額が2度更新された。しかし、それまでGK史上最高額は2001年夏にユヴェントスがジャンルイジ・ブッフォン獲得に支払った5400万ユーロだった。
サラリーの面では、ダビド・デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド/推定年俸1500万ユーロ)、ヤン・オブラク(アトレティコ・マドリー/1000万ユーロ)と高給取りになるのは一部の選手のみだ。リオネル・メッシ(4000万ユーロ)、ネイマール(3600万ユーロ)、ガレス・ベイル(1700万ユーロ)といった選手たちと比較すれば、扱いの差は明らかだ。
だが、だからこそバルセロナはテア・シュテーゲンを手放すべきではないだろう。攻撃重視、守備軽視のチームがどのような結末を迎えるかは歴史が証明している。ラウタロ・マルティネス獲得に注目が集まる中、テア・シュテーゲンを繋ぎ止められるかどうかは、ひとつのターニングポイントになるかも知れない。