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渡辺明名人、防衛か? 斎藤慎太郎八段、カド番をしのぐか? 名人戦七番勝負第5局2日目始まる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月29日。岡山県倉敷市・倉敷市芸文館において、第80期名人戦七番勝負第5局▲渡辺明名人(38歳)-△斎藤慎太郎八段(29歳)戦、2日目の対局が始まりました。

 七番勝負はここまで渡辺名人3勝、斎藤八段1勝です。

 渡辺名人が本局で勝てば防衛が決まります。

 本局の立会人を務めるのは、永世名人位を襲位したばかりの谷川浩司17世名人(60歳)です。

 両対局者が駒を並べ終えたあと、谷川17世名人が声を掛けました。

谷川「それでは1日目の指し手を読み上げます」

 本局の記録係を務める清水航三段(25歳、伊藤博文七段門下)です。

清水「先手・渡辺明名人▲2六歩。後手・斎藤慎太郎八段△8四歩」

 両対局者は清水三段の棋譜読み上げに従って、前日の指し手を再現していきます。戦型は角換わり。互いに攻めの銀を手早く押し上げていく「早繰り銀」に出ました。

清水「先手▲4五歩・・・までです」

 47手目、渡辺名人が4筋の歩を突っかけたところで1日目は指しかけ。斎藤八段が48手目を封じました。名人戦七番勝負は2日制で、持ち時間9時間という長丁場です。

清水「1日目の消費時間。渡辺名人、3時間と13分。斎藤八段、4時間と54分です」

 長考派の斎藤八段。時間消費では先行する進行がよく見られます。

谷川「間もなく1分前になりますので、封じ手の開封をいたします」

 谷川17世名人が2つの封筒にはさみを入れ、封じ手用紙を取り出します。斎藤八段は赤ペンで3三の桂に丸をして、4五の地点に矢印を伸ばしていました。

谷川「封じ手は『△4五同じく桂』です」

 斎藤八段はゆったりとした手つきで相手の歩を手にして駒台に置き、自身の桂をその位置に進めました。

谷川「それでは時間になっておりますので、対局を再開いたします」

 両対局者は改めて一礼しました。

 封じ手は観戦者でも予想しうる、常識的な選択肢のひとつ。名人は当然、そのはるか先まで読んでいるはずです。

 渡辺名人は湯呑を口にしてお茶を飲み、おしぼりで手を拭きます。すぐに指す気配はありません。

谷川「なにかお気づきのこととか、よろしいですか?」

 対局時は部屋の温度や光の加減など、対局者から要望が出される場合があります。谷川17世名人はそうした点について尋ねたのでしょう。対局者からは特に要望はありませんでした。

 報道陣、関係者が退出したあと、渡辺名人は同じく桂と進めました。この一手の消費時間は7分です。形勢はほぼ互角。まだまだ先の長い戦いです。

 カド番に追い込まれている斎藤八段。七番勝負において1勝3敗からの3連勝は、将棋界ではあまり例がありません。名人戦は1度だけです。斎藤八段、ここから大逆転なるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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