京都でラーメンが劇的に進化し続けている理由とは?
日本屈指のラーメンの街『京都』に異変が
意外に思われるかも知れないが、京都は古くからラーメンが愛されてきた街だ。その歴史を紐解けば、戦前に京都駅周辺に出来た屋台から始まるとのことで、80年以上ものあいだ京都ではラーメンが好まれてきたわけだ。その屋台が発祥の『新福菜館』をはじめ、『第一旭』や『天下一品』、さらには『来来亭』『魁力屋』など京都で生まれて全国に名前が知られているラーメン店も少なくない。日本でも屈指のラーメンの街と言っても過言ではないだろう。
料理で言えば、繊細で優しい日本料理のイメージが強い京都だが、ラーメンに関してはかなりワイルド。鶏を使ったスープに強めの醤油を合わせたラーメンや背脂が浮いたラーメン、さらには鶏を骨ごと長時間炊き込んでドロドロにした濃厚な鶏ラーメンなど、雅な古都のイメージからは想像もつかないほど、京都で長年愛され続けているラーメンたちはどれも革新的で先鋭的だ。
そんな京都のラーメンシーンに、次々と新しいラーメン店がオープンして話題になっている。2020年11月、烏丸御池にオープンしたばかりの『slurp(スラープ)』(京都府京都市中京区菱屋町33)もその一つ。スタイリッシュな内外観はラーメン店とは思えないレストランのような佇まい。スタッフは全員女性でカフェのような雰囲気すら感じる。そして出て来るのはスペインのイベリコ豚を使用したつけ麺と、これまでの京都ラーメンはもちろんのこと、全国的にみてもかなり新しい試みのラーメン店になっている。
フレンチシェフが作るオーガニックラーメン
2019年4月、清水寺近くにオープンした『Le sel organic(ルセルオーガニック)』(京都府京都市東山区清水4-148-6)は、東京西麻布の人気モダンフレンチ『Crony(クローニー)』が手掛けるオーガニックラーメン店。「日本初のオーガニックラーメン小会席」を掲げて「身体も心も喜ぶ、罪悪感のないラーメンを全人類へ」がコンセプトとなっている。
フレンチのビストロを彷彿とさせる店作りもさることながら、注目すべきはやはりその料理たち。その食材から調味料、ビールやお茶にいたるまで全てがオーガニック。麺もオーストラリア産のオーガニック小麦を使った特注麺と徹底している。京都らしくおばんざいをフレンチテイストで仕上げた前菜、餃子やワンタン代わりのラビオリに、京茶飯と続きメインのラーメン、最後はプチデザートとコース仕立てて楽しめる。ビーガンの人には野菜だけでコースが構築出来るのも嬉しい。
ラーメンは「鶏白湯ラーメン」「魚のコンソメラーメン」「ビーガンラーメン」の三種類から選択が可能。オーガニック素材で化学調味料は不使用。得てして異業種のレストランが作るラーメンは、ラーメン専門店のそれとは比べ難いものだが、数々の人気フレンチで腕を磨いてきたシェフの田島光将さんが大のラーメン好きということもあり、フレンチの片手間ではない専門店顔負けのラーメンに仕上がっているのはさすがだ。
アートとラーメンが融合した異空間が出現
2020年3月、京都市役所近くにオープンした『Vegan Ramen UZU KYOTO』(京都府京都市中京区梅之木町146)は、その名の通りヴィーガンラーメンの専門店。まず圧倒されるのが店の作り。京都らしく通り庭を想起させる通路を抜けると、薄暗いモノトーンの部屋がお出迎え。正面にはスクリーンが配され、そこには墨絵をイメージした映像が投影されている。そして席に着くとピンスポットが自分のテーブルだけを照らし出す。
ラーメン店とは思えない異空間を演出したのは、デジタルアート制作集団『teamLab(チームラボ)』によるもの。「空書」と呼ばれる映像作品を壁面に据えて、鏡やテーブルに反射した映像に包まれる中でラーメンを味わうという体験が出来る。
ラーメンは動物系素材不使用のヴィーガン対応。羅臼昆布や椎茸、野菜などの旨味と力強い醤油ダレとしなやかな食感の自家製麺でインパクトのある一杯を生み出している。さらにヴィーガン寿司やヴィーガン餃子なども提供しており、ヴィーガン料理の新たな表現を提案している。
京都のラーメンが進化し続けている理由
新型コロナウイルスの感染拡大によって、飲食業界や観光業界は大打撃を受けている。特にインバウンド需要が大きかった観光都市京都のダメージは大きく、400年の歴史を誇る名料亭『瓢亭』(京都府京都市左京区南禅寺草川町35)も通販限定で「鯛ラーメン」の販売を開始した。2食で5,400円とラーメンとしては破格の値段だが、常に売り切れとなる人気を博している。他にもフレンチやイタリアンなどのレストランがメニューの中にラーメンを取り入れるなど、京都のラーメンはラーメン専門店に留まらない。古くから愛されているラーメンがある一方で、新しいラーメンも次々と登場し続けているのが京都のラーメンシーンの特徴だ。
今でこそコロナ禍で訪日外国人は激減しているが、京都は日本でも屈指の観光都市として、多くの外国人観光客を受け入れてきた街だ。そして外国人観光客が訪日して食べたい日本食として必ず名前が上がるのが「ラーメン」である。インバウンド需要が高く、戦前からラーメンが愛されてきた場所であり、なおかつ日本料理をはじめとする出汁文化が根付いている京都という街とラーメンの親和性は高い。また、老舗のラーメン店は常に行列を作るほどの人気を誇り、中堅店もレベルも高い店が競い合っており、全国的にみてもラーメンの競争が激しい街が京都なのだ。
生半可なラーメンでは生き残れないという、京都特有のラーメンマーケットの厳しさ。さらにラーメンへの意識が高い外国人観光客を満足させ得るラーメンと空間作りへのモチベーションが、京都のラーメンを革新的で斬新なラーメンに進化させている原動力なのだ。
※写真は全て筆者によるものです。