おおよそ軟調、一誌が特需の反動で大幅下落…女性向けコミック誌の部数動向をさぐる
トップはBE・LOVE
加速度的に展開される技術革新、中でもインターネットとスマートフォンをはじめとしたコミュニケーションツールの普及に伴い、紙媒体は立ち位置の変化を余儀なくされている。すき間時間を埋めるために使われていた雑誌は大きな影響を受けた媒体の一つで、市場・業界は大変動のさなかにある。その変化は少年・男性向け雑誌ばかりでなく、少女・女性向けのにも及んでいる。今回はその雑誌のうち、女性向けコミック誌(少女向けのコンセプトで発刊されている雑誌群よりも対象年齢は上。大よそ大学生以上が対象。いわゆるR指定は無いが、その判断を下されてもおかしくない雑誌、連載もある)について、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(該当四半期の1号あたりの平均印刷部数。印刷数が証明されたもので、出版社の自称・公称部数では無い。売れ残り、返本されたものも含む。電子版は含まれない)から、実情をさぐる。
まずは女性向けコミック誌の現状。最新データは2017年第3四半期(7~9月)のもの。
トップの「BE・LOVE」(主に30代から40代向けレディースコミック誌)がやや突出、「プチコミック」「YOU」が続く。両誌雑誌はここしばらく部数で激しいつばぜり合い、さらには順位の入れ替わりの動きを続けている。
またグラフの形状から分かる通り、「フラワーズ」が異様な値動きをしている。これは入力ミスでもトラブルでもなく、同誌の特需の反動によるもの。詳細については次の項目で解説していく。
特需反動で大きな下落誌…四半期変移から見た直近動向
次に前四半期と直近四半期との部数比較を行う。雑誌は季節で販売動向に影響を受けやすいため、精密さにはやや欠けるが、大まかに雑誌推移を知ることはできる。
誤差領域(上下5%以内の幅)を超えた下げ幅を計上したのは2誌、「フラワーズ」と「ARIA」。特に「フラワーズ」はマイナス29.2%、つまり前四半期比で部数を3割近くも減らした計算になる。その原因は人気作品「ポーの一族」の続編「ポーの一族 春の夢」が、前四半期に当たる5月売りの7月号で完結したことによるもの。
今四半期は「ポーの一族 春の夢」で大きく部数を増やした時期の反動がそのまま数字となって現れている。掲載分はすでに7月に単行本として発売されており、また来春には新しいシリーズがスタートするとの告知もある。しばらくは「ポーの一族」特需があったことを再確認できる状況が続くだろうし、来春は再び特需が発生するものと考えられる。
それにしても2016年4~6月期の盛り上がりも「ポーの一族 春の夢」によるものであることを思い返すと、同作品のけん引力の大きさを改めて知ることができるグラフには違いない。
季節変動を考慮しなくて済む前年同月比では
続いて「前年同期比」による動向。年ベースの変移となることから大雑把な状況把握となるが、季節による変移を考慮しなくて済むので、より確かな精査が可能となる。
「フラワーズ」は「ポーの一族 春の夢」の特需の香りが残っており、それが数字となって現れた形。他方、「フラワーズ」以外はすべてマイナスで、1割超えの下げ幅を示したのは4誌に及ぶ。
「ARIA」はかつて「進撃の巨人」特需で大きく部数を底上げしたが、間もなく失速。その後は下落基調を示している。部数は記録の限りではこれまでの最小値だった1万2000部すら下回る値にまで落ちており、危機感を覚える。
再び大金星をつかみ、グラフにダイナミックな動きを示してほしいものだが。
1年ほど前には複数の雑誌で見られた「おそ松さん」特需だが、今四半期では残り香すら無く、通常運転に戻っている。すでに第二期の実放送も始まっており、それに向けた企画記事などで盛り上がりを見せてもよいはずなのだが。
「進撃の巨人」や「おそ松さん」のような盛り上がりを複数タイトルで意図的に起こせるようになれば、全盛期の週刊少年ジャンプのような活性化も不可能では無い。最近ならば「ポーの一族 春の夢」が好例。そのためには幅広い層へ訴えかける、購入動機をかきたてる作品との連動、あるいは発掘、さらには創生が欠かせまい。
他方、他ジャンルの記事でも言及しているが、多くの雑誌で電子化が行われており、電子版に読者の一部を奪われ、結果として紙媒体としての印刷部数が減退している可能性は否定できない。
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(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。