Yahoo!ニュース

「4人の元大関」が平幕で奮闘する史上初の出来事。異例の七月場所でV争いも?

飯塚さきスポーツライター
着々と番付を上げてきた元大関の照ノ富士(写真は初場所・著者撮影)

4か月ぶりとなった本場所。今回の七月場所はあらゆる面で異例であるが、その番付にも珍しい事態が起きているのにお気づきだろうか。幕内の10枚目以下に、元大関の力士がなんと4人もいるのだ。こんなことは、史上初だという。本稿では、改めてこの4人の力士の2日間を振り返ってみる。

照ノ富士の復活と琴奨菊の奮闘

いま4人のなかで最も勢いがあるのは、序二段から這い上がってきた照ノ富士だろう。初日は琴勇輝をものともせず、二日目の昨日は、動き回る琴恵光に最後は両まわしを取って寄り切り。危なげない相撲を見せ続ける。

膝の大けがを経験し、大きく番付を落とした照ノ富士。師匠である伊勢ヶ濱親方に何度も辞めたいと伝え、そのたびに親方から鼓舞されてきたと話す。我々の想像を絶するような涙ぐましい努力の結果が、まさにいまこうして花開いているのである。

冗談抜きに、今場所の優勝争いに加わる可能性があるし、そうなったら本当に面白い。少なくとも、この復活劇はここで終わるものではないと信じている。

東14枚目の琴奨菊は、2017年初場所、7度目のカド番で負け越し、大関から陥落。さらに、ここ1年は負け越しの場所が続いている。しかし、初日は相手の若隆景に何もさせることなく、立ち合いの出足から一気に寄り切った。二日目の昨日も、お腹の大きな千代丸に立ち合いで両腕を差され、土俵際まで攻め込まれるも、なんとか残して得意の左四つの形になり、一気に攻めて逆転の寄り切り。ここ2日間の相撲を見ると、調子も悪くないように感じられる。代名詞であるがぶり寄りは、今場所何度繰り出されるだろうか。今日からも期待したい。

ケガが心配な高安と栃ノ心

一方、少し心配なのは、30歳の高安。腰や肘のケガで休みがちになり、昨年11月場所に大関陥落が決定。今年に入ってからも成績は振るわず、今場所は東の13枚目で迎えた。初日は、佐渡ヶ嶽部屋のサラブレッド・琴ノ若と対戦。立ち合いで左を差すも、土俵際で琴ノ若が思い切ったすくい投げを繰り出し、これを避けられなかった。本人にとっては、かなり悔しい展開だったに違いない。

変わって、松鳳山と対戦した昨日二日目は、互いに腕を探り合い、左下手を取らせてもらえず、両者動きが止まる場面も。ただ、最後は左のまわしに手がかかり、相手の体勢を崩すように引きながら打った出し投げが決まった。ケガが完治することはないのだろうが、今後もうまく付き合って、星につないでいけるか。

そして、豪快な取り口が魅力の栃ノ心。初日の志摩ノ海戦では、がっぷり四つに組み、途中豪快な下手投げも見せながら、最後は相手を引きつけて寄り切った。しかし、昨日の魁聖戦では思うようにいかなかった。がっぷり四つに組むと、互いに力の引き付け合い。一度は相手の左上手を切ったものの、再度取られて腰が浮いてしまった。怪力で知られる栃ノ心だが、大柄な魁聖に力及ばず。

一時期は、栃ノ心がまわしを取ったら、その時点で「終わったな」と思って見ていたものだが、ここのところはそうもいかないようである。やはり、全盛期の力強さはどこか影をひそめてしまっているように見受けられるのだ。今日からどう立て直してくるだろうか。

2大関の勢い止まらず

一方、場所前から大注目の新大関・朝乃山と、カド番脱出をかける貴景勝の2大関は、序盤から好調。特に朝乃山は、多くの力士が稽古不足と相撲勘の鈍りを感じるなかで、ひときわ安定した相撲を見せている。どこをとっても言うことなしの相撲だ。新大関のプレッシャーなど微塵もないかのように振る舞い、大関としての責務を全うする姿は、神々しくもある。

膝のケガが心配されている貴景勝も、土俵上ではそんなそぶりを見せず、連日「ゴツッ」という鈍い音を立てる立ち合いで相手を圧倒している。この流れに乗って、後半戦へと星をつなげていきたいところだろう。

場所が始まって、まだ丸2日。“大関”というキーワードだけをとっても、これだけ多くの見どころがある。本日も、ぜひ多くの力士を応援していただきたい。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

飯塚さきの最近の記事