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英国で「コロナ探知犬」訓練開始 なぜ犬に能力や適性があるのか解剖学と行動学から解説

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルスが、世界中で猛威をふるっています。

新型コロナウイルスの感染を特定するためにPCR検査をしますが、時間や手間がかかります。日本では検査がなかなか受けられないと、問題になっていますね。そんな中、英国のロンドン大学の研究者が犬の嗅覚に目をつけました。

犬の嗅覚が感染者の確認に一役買うかもしれません。

 イギリスにあるロンドン大学の研究者らが鋭い嗅覚を持つ犬に新型コロナウイルスの感染者を特定する訓練を始めたと発表しました。訓練に6週間ほどかかるということです。犬は、すでにがんやマラリアの患者をにおいで特定することに成功していて、新型コロナウイルスの感染者にもしも特有のにおいがあれば探知できる可能性があるということです。うまくいけば短時間で多くの人を対象にできるため、空港などで無症状の感染者を特定することなどが期待されると地元メディアは報じています。

[テレ朝news]https://news.tv-asahi.co.jp

出典:においで感染者を特定?犬の嗅覚で新型コロナ発見を(20/04/02)

なぜ 犬が新型コロナウイルスの有無がわかる「新型コロナウイルス探知犬」になれるか?

犬の嗅覚

撮影筆者 17歳の愛犬の鼻
撮影筆者 17歳の愛犬の鼻

・犬がニオイを嗅ぐときのメカニズムは以下です。

まず外鼻孔(いわゆる鼻の穴)→ 鼻腔(びくう)と呼ばれる空気のたまり場へ。鼻腔の表面は嗅粘膜と呼ばれる粘液上の物質で覆われていて、ニオイが嗅神経を刺激します。 嗅神経で発生した電気信号はその後、篩骨篩板(しこつしばん)と呼ばれる骨を通過して嗅球で脳の部位に達し、そこで情報処理されます。

ちなみにこの嗅球は、人間の場合約1.5グラムですが、犬の場合は中型犬でも6グラムほどあります。つまり、人間の4倍に達するという計算です。

・犬の嗅覚は、最先端の人工機器よりもはるかに敏感といわれています。

・ニオイの種類や犬によって差はありますが、刺激臭で人の1億倍感知できます。

・オスには発情期のメスのニオイを数kmほど離れた場所でも感知できる子もいます。

動物行動学

撮影筆者の知人
撮影筆者の知人

・犬は群れ社会の動物です。

・ボスがほめてくれると、「ニオイ」を嗅ぐという仕事を喜んでします。

・人と一緒に仕事をする犬は、与えられた仕事が好きなので、想像以上の業績を残します(能力があっても喜んでやれない子は、業績がよくないし、病気になりやすいです)。

犬の嗅覚と行動学を使っての犬の仕事

・警察犬

・救助犬

・麻薬犬

・マラリア探知犬

・がんの探知犬

問題点

新型コロナウイルスは感染症なので、もしかしたら、犬に感染するかもしれないという問題が孕んでいます(まれなケースですが、香港で犬が感染していると発表されていますから)。人と接触しないで(2メートル以上離れて)、検査する必要がありますね。獣医師の立場では、もちろん人の健康も大切ですが、犬の健康もきちんと配慮することも当然なことです(アニマルウェルフェアという観点から考えても)。

犬の嗅覚は鋭く 他の犬の死期がわかる 実話

犬は、人よりはるかに嗅覚が鋭い動物です。犬によってその差はもちろんあります。犬を多頭飼いしている人から、以下のような話を聞くことがよくあります。

私たちは、がんの治療を多くしています。木元さん(仮名)もそのひとりでした。がんの子ともう1頭の犬を飼われていました。がんの子が、亡くなる1週間前に、もう1頭の犬ががんの子の近くに寄りつかなくなりました。それまでは、ずっと2頭で一緒に寝ていたのに、離れるようになったそうです。犬が亡くなる前に飼い主は「先生、もう、この子、もたないと思います、、、」と涙ながらに話されていました。

このような話を飼い主から伺うのは、一度きりではありません。犬は、ニオイで死期がわかるようです。たぶん、腸内細菌叢に悪玉菌などが増えて、呼気のニオイに変化があるのを察しているのでしょう。

まとめ

グローバル化の時代で、ものや人が世界中を移動します。そして、それとともにウイルスも移動して、世界に広っています。新型コロナウイルスだけではなく、他の新型ウイルスも広がる可能性があります。

そんな中、犬の嗅覚の鋭さ、群れ社会の動物という観点から、社会課題の解決に犬の能力を活用することは適しています。その一方、犬の幸せも考える世の中になってほしいです。アニマルウェルフェアという観点が、一般的なこととして浸透するよう願っています。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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