大阪市内を貫く「なにわ筋線」にみえる各社の思惑
4月下旬、「JR北梅田駅開業で大阪はどう変わるか」というタイトルで講演をさせていただく機会があった。文字通り、2023年春に予定されているJR北梅田駅の開業が、キタと呼ばれる梅田地区をはじめ大阪の発展にどんな影響を与えるのか、という内容である。同駅は新大阪駅と大阪環状線の西九条駅を結ぶ東海道貨物支線(通称:梅田貨物線)に新設される駅だが、ちょうど講演会の数週間前から現在にかけ、この駅に乗り入れが予定されている「なにわ筋線」の建設計画について、いくつかの進展が報道されるようになった。
今回は、この北梅田駅となにわ筋線について考えてみる。なお、同線の計画に関して事業主体(大阪府・大阪市および各鉄道会社)から公式な発表は行なわれていないため、以下の内容は報道に基づく筆者の推測が含まれることをご了解いただきたい。
○なにわ筋線とは?
そもそも、なにわ筋線とはどういう路線か。その名が示すように、同線は大阪市中心部を南北に通る道路「なにわ筋」に沿って計画されている。JR関西本線の難波駅と南海高野線の汐見橋駅からそれぞれ北上し、梅田付近から新大阪駅へ至る路線として、1990年代に計画が具体化。2004年には「中長期的に整備が望まれる新規路線」として国土交通省の審議会が答申に盛り込んだ。3000~4000億円とされる建設費の高さから、なかなか議論は進まなかったが、外国人観光客などの増加にも後押しされて、ここ数年で急速に進展。今年3月には「2021年着工、2030年開業を目指す」と報道された。
この間、大きく変化した点が2つある。一つは、南海側の接続地点が汐見橋駅から難波付近とされたことで、これによって建設費の圧縮や採算性の向上が見込めるという。新今宮駅付近で分岐して高架から地下へ潜り、現在の難波駅とは別に地下の難波駅を造る計画で、このルートであれば汐見橋ルートと違い、泉北ニュータウンや高野山方面へのアクセスも便利になることが見込まれる。
そしてもう一つが、最近にわかに報道され始めた、阪急電鉄の参画である。
○阪急が参画する狙いは?
報道によると、阪急はなにわ筋線の関連事業として、北梅田駅~阪急十三駅間の新線建設を打診。もちろん、北梅田駅から先はなにわ筋線へ直通する狙いである。
だがここで、少し鉄道に詳しい人なら疑問が生じる。阪急の既存路線は線路幅が「標準軌」と呼ばれる1,435mmで、JRや南海は「狭軌」と呼ばれる1,067mm。そのため、この新路線は阪急の既存路線と直通できず、十三駅で必ず乗り換えが必要となるのだ。そんな新路線を阪急が作る意義はどこにあるのか。
その答えが、阪急電鉄の親会社・阪急阪神ホールディングスが先日発表した「グループ長期ビジョン2025」の中に盛り込まれた「新大阪連絡線」だ。
新大阪連絡線は、十三駅と新大阪駅を結ぶ路線で、最初に計画がもち上がったのはなんと50年以上も前である。実は新大阪駅付近には、新幹線に沿う形で阪急が既に土地を取得しており、すぐにでも線路が敷けるよう、駐車場などとして使用。今年で53歳を迎える東海道新幹線の高架橋なども、この路線の建設を見越した構造となっている。もともとは、この区間と新大阪~淡路間、それに新大阪~阪急神戸線神崎川間が一体になった計画で、この2路線の敷設が断念された後も十三~新大阪間の事業免許は残された。さらに一時期、十三から大阪市営地下鉄西梅田駅への路線が検討されたこともある。そして、なにわ筋線への阪急の参画。
つまり、阪急は新大阪~十三~北梅田を狭軌で建設し、なにわ筋線へ乗り入れることで難波や関西空港へのアクセス向上を狙っているのである。既存路線とは十三駅で乗り換えが必要になるものの、これまで阪急の弱点だった「新幹線への接続」と「大阪南部へのアクセス」を解消できるメリットは大きい。
さらに、この計画は南海にとっても大きなメリットがある。なにわ筋線は北梅田駅までの建設であり、同駅から新大阪までの線路を保有するJR西日本は、南海の乗り入れに難色を示している(とされている)。これはJRにしてみれば当然の話で、南海特急「ラピート」が関西空港から新大阪まで乗り入れると、新幹線利用客の関西空港へのアクセスというJRの優位性が奪われてしまう。逆に南海としては、新大阪乗り入れはぜひとも実現したいところだが、阪急の新路線ができればJRの“意向”に関係なく、それが可能となるのだ。
もちろん、利用者にとっても各方面への移動が便利になり、また現在は60分弱かかっているキタ~関西空港の所要時間が40分程度に短縮されるなど、さまざまな効果が期待されている。
大阪南部から新大阪へのアクセスを目指す南海、50年越しの計画を実現したい阪急、そしてそれに対抗するJR西日本。しばらく、なにわ筋線の動向から目が離せなさそうである。