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【深掘り「鎌倉殿の13人」】北条義時の妻「のえ」は、夫に内緒で謀反を企んでいたのか

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
菊地凛子さん演じる「のえ」。(写真:Shutterstock/アフロ)

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では源実朝が殺害されたが、「のえ」の陰謀めいた行動がクローズアップされている。この点について、詳しく掘り下げてみよう。

 「のえ」(伊賀局、伊賀の方とも)は、御家人の伊賀朝光の娘で、北条義時の後妻となった。ドラマでは、菊地凛子さんが演じており、怪しげな雰囲気を醸し出している。何となくズボラな女性で、生田斗真さん演じる源仲章ともたびたび密談をしていた。

 しかし、源実朝が公暁に鶴岡八幡宮で討たれたとき、仲章はたまたま義時と剣を持つ役を代わっていたため、巻き添えで殺されてしまった。事件後、2人の怪しい関係は義時にも伝わっていた様子で、「のえ」に警告を発していた。むろん、「のえ」が不審な行動をするのには理由があった。

 義時の後継者としては、泰時が有力だった。事実、義時の没後、泰時は3代執権に就任し、有名な「御成敗式目」を制定し、北条氏の歴代執権のなかでも高い評価を受けた人物である。しかし、「のえ」の実子ではない。

 「のえ」が義時との間にもうけたのは、政村だった。のちに、政村は評定衆に就任し、引付頭人、連署という要職を歴任した。遅くはなったが、政村は7代目の執権に就任したので、別に冷遇されたわけではない。とはいえ、「のえ」が我が子の出世を望むのは理解できなくもない。

 貞応3年(1224)6月から閏7月にかけて、伊賀氏の変が勃発した。変については、改めて詳しく述べる機会をもうけたいと思うが、義時の死後、「のえ」は政村を後継の執権に据え、娘婿の一条実雅を実朝の後継の征夷大将軍に就けようとしたという。

 むろん、変は「のえ」の単独ではなく、伊賀一族が絡む政変だった。しかし、「のえ」ら伊賀一族の陰謀は未然に察知され、当初の予定どおり泰時が義時の跡を継いで、執権の座に就いた。変後、「のえ」は伊豆北条に流罪となり、伊賀一族の面々も流罪となった。

 とはいえ、実際に変があったのかは断言できず、でっち上げともいわれている。義時死後、幕府は「のえ」が後妻として権勢を振るうのを恐れ、陰謀の濡れ衣を着せて処分したという。はたして、真相はいかに。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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