なぜW杯で“守備的な戦い方”が流行したのか?森保ジャパン、オランダ…ポゼッションとカウンターの狭間
カタール・ワールドカップが、終わりに近づいている。
準決勝に進出したのはアルゼンチン、フランス、モロッコ、クロアチアだった。ベスト4の4チームを大会前に予想していた者は少なかったはずだ。
波乱の多い大会になったという気がしている。とりわけ、モロッコの上位進出には驚かされた。
裏付けとして、今大会、守備的な戦い方をしたチームが勝利を重ねていったという事実がある。森保ジャパンもその一つだ。
■8割以上の得点
時を少し遡る。1950年3月、イングランドの3部リーグで、ある試みが行われた。サッカーをデータ化する、という試みだ。
そこでは、サッカーにおいて得点の85%以上がアンダースリー(3タッチ以下)の攻撃で実践されているという数字が出た。恐るべきデータである。
以降、イングランドのサッカーは、いわゆる「キック・アンド・ラッシュ」に移行していった。ショートパスを繋ぐのではなく、シンプルにロングボールを蹴って、前線に走り込んで得点を狙うスタイルだ。
一方で、近年、その潮流を破ったチームがある。スペインだ。
スペインの「チキ・タカ」はある種、キック・アンド・ラッシュに対するカウンターカルチャーだった。
■パスサッカーとポゼッション
スペインは2004年にルイス・アラゴネス監督が代表指揮官に就任。そこからチキ・タカと称されるパスサッカーに力を入れ始める。スペインといえば、元々、パスサッカーという印象があるかも知れない。だがハビエル・クレメンテ監督が率いていた時代(1992年―1998年)では、スペインでさえロングボールを使っていた。自分たちのスタイルを模索していたのだ。
アラゴネス監督はスペイン代表で中盤を重要視した。シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、ダビド・シルバ・セスク・ファブレガスらが重宝されるようになっていった。
そして、時代がそこに重なり合う。ペップ・グアルディオラ監督がバルセロナでBチームからトップチームの監督に昇任して、バルセロナに黄金時代が到来した。EURO2008でスペインがヨーロッパのチャンピオンに輝いたのち、2008−09シーズンにバルセロナがチャンピオンズリーグ制覇を含むトリプレテ(3冠)を達成。そして、2010年にアラゴネス監督からスペイン代表を引き継いだビセンテ・デル・ボスケ監督がチームを世界王者に導いた。
2014年まで、その流れは続いた。ブラジル大会で優勝を飾ったドイツ代表のヨアヒム・レーブ監督は、スペイン代表のサッカーから非常に影響を受けていたと言われている。
他方で、パスサッカーがトレンドになれば、当然、それに対抗するところが出てくる。
2018年のW杯で、優勝したのはフランスだった。ディデイエ・デシャン監督はCB型の選手を最終ラインに4枚並べ、中盤にエンゴロ・カンテ、ポール・ポグバとフィジカル能力の高い選手を置き、キリアン・エムバペという飛び道具を最大限に生かしてジュール・リメ杯を獲得した。
■時流の見極めとスタイル
カタールW杯でも、パスサッカーへの抵抗は顕著だった。
オランダ代表や日本代表の5バックは分かりやすい例である。【5−3−2】と【5−4−1】で相手の自由を奪い、カウンターあるいはセットプレーで勝機を見出す。
クロアチアは日本戦で三笘薫が途中出場した後、選手交代を行いダブルチームで彼をストップしようとした。瞬間的に5バック化する形で日本のストロングポイントを消そうとした。
モロッコは【4−3−3】を基本システムとしながら、守備の時に片側のWGが下がり5バック化して跳ね返すやり方で戦ってきた。
ポゼッション、カウンター。それは二元論ではない。表裏一体で、ミックスさせられるチームが強い。
だがーー。潮流は堅守速攻のスタイルに傾いている。
一方で、これが再びポゼッションとパスサッカーへと流れていく可能性もある。日本代表のベスト16進出という結果に一喜一憂している場合ではない。時流を見極めながら、真のスタイルを突き詰める姿勢こそが必要なのだと、カタールW杯を見ていて強く思うのだ。