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韓国政権批判の集会で新型コロナ感染者がマイク使い回し――支持率低下の文在寅氏ここぞとばかりに反転攻勢

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
マイクを使い回しにする全牧師=MBCのウェブサイトより筆者キャプチャー

 韓国で今月15日に開かれた文在寅政権批判の保守派大規模集会で、演壇に立ってマイクを使い回しにした人物がその2日後、新型コロナウイルス感染と確認され、衝撃が走っている。この人物が運営する教会を発信源に感染が急拡大しており、防疫当局は危機感を強める。一方、支持率が低下する文政権は「保守派批判の好機」とみて攻勢に転じている。

◇教会発の感染が急拡大

 文大統領の退陣を求める大規模集会はソウルの光化門広場で開かれた。

 MBCテレビの映像には、主催団体の一つ「サラン第一教会」の担当牧師を務める全光フン(チョン・グァンフン)氏が演壇に立ち、マスクを取って演説を始める様子が収められている。演説の合間、参加者が全牧師に水筒を握らせたり、牧師の手を握って高く持ち上げたりしていた。

 全牧師は15分間の演説を終えたあと、使っていたマイクを他の参加者に手渡した。マイクはそのままの状態で司会者や、他の発言者約10人にも使い回しにされた。集団感染を防止するための措置はほぼ取られていなかったようだ。

 より深刻な問題は、全牧師が自己隔離を求められながらも集会に参加していた点だ。サラン第一教会では12日の段階で新型コロナの感染者が出ていて、全牧師も集会参加時に感染していた可能性があったためだ。実際、全牧師は集会2日後に検査したところ陽性と判定され、牧師の妻も秘書も陽性だった。

 サラン第一教会での感染者は18日現在で400人規模と急拡大している。YTNテレビによると、防疫当局は信者約4000人のうち約3200人を隔離。既に約2500人が検査を受け、陽性率は15%に達しているという。防疫当局は教会側が提出した信者名簿をもとに連絡を取っているが、虚偽内容が含まれている疑いがあり、残る約800人とは連絡が取れないという。

 光化門広場での集会には2万人ほどが参加し、警官隊も6000人が動員されていたため、感染急拡大の懸念が出ている。MBCによると、警官隊の2人が咳の症状を訴え、自己隔離に入ったという。

 防疫当局は、大規模被害となれば、集会主催者に賠償請求する方針という。韓国政府とソウル市はすでに、感染病予防法に違反した疑いで全牧師を告発している。

 中央防疫対策本部は17日、「現在の状況は大規模流行の初期段階であると判断している」と指摘したうえ「直ちに感染を制御しなければ、医療崩壊、莫大な経済被害につながる」と危機感をあらわにしている。

◇文在寅氏「非常識な行動」

 今回の保守派集会でのトラブルを、文大統領や与党「共に民主党」が「逆風」をはねのける好機とみているのは間違いない。

 韓国では最近、不動産政策への不満などから文政権の支持が急落している。支持率は今月14日には39%まで下落し、過去最低となった。これに対し、保守の最大野党「未来統合党」は支持を伸ばしている。

 文大統領は16日、SNSで見解を発表し、全牧師を念頭に「大規模な集団感染源となっている一部教会の状況は、憂慮にたえない」と批判、「新型コロナウイルスの感染拡大を防ごうと、全国民が長い間がんばってきた。その国民の努力に水を差すような、とても非常識的な行動だ」と断じた。

 さらに「国の防疫システムに対する明白な挑戦であり、国民の生命を脅かす許せない行為」と強調したうえ「政府は強制手段を動員してでも、断固とした強い措置を取る」と宣言した。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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