Yahoo!ニュース

ペップの矜持。マンチェスター・シティの飽くなき挑戦と、浸透する「偽センターバック」

森田泰史スポーツライター
マンチェスター・シティの選手たち(写真:ロイター/アフロ)

ペップ・グアルディオラ監督の、マンチェスター・シティでの挑戦は終わらない。

ペップ・シティの特徴は圧倒的な攻撃力だろう。プレミアリーグ第6節、ワトフォード戦では試合開始から18分で5得点をマーク。プレミアにおける新記録を樹立した。シティはその試合で8-0の勝利を手にしている。

攻撃陣では、ラヒーム・スターリングが好調だ。今季、シティで14試合13得点。イングランド代表での試合を含めると、18試合17得点だ。昨季記録した25得点を超える勢いでゴールを量産している。

■偽センターバック

だが、グアルディオラ監督の狙いは、そこではない。

プレミアリーグ第9節、クリスタル・パレス対シティの一戦で、センターバックに据えたられたのはロドリゴ・エルナンデスとフェルナンジーニョだった。本来、ボランチでプレーする2選手が最終ラインで顔を並べた試合を、シティは2-0で制している。

シティはカイル・ウォーカー、ニコラス・オタメンディ、アイメリック・ラポルテが負傷離脱中だ。だがジョン・ストーンズがベンチスタートとなり、「ロドリ」の愛称で親しまれるロドリゴとフェルナンジーニョがディフェンスラインに入った。そして、チャンピオンズリーグ・グループステージ第3節アタランタ戦で、その並びが繰り返されている。

グアルディオラ監督が偽センターバックに取り組むきっかけとなった試合のひとつが、2017-18シーズンのチャンピオンズリーグ準々決勝セカンドレグのリヴァプール戦だ。

この試合に、グアルディオラ監督は3-4-3で臨んでいる。GKエデルソン・モラレス、最終ラインにウォーカー、オタメンディ、ラポルテ、中盤にフェルナンジーニョ、ベルナルド・シウバ、ケヴィン・デ・ブルイネ、ダビド・シルバ、前線にスターリング、ガブリエウ・ジェズス、レロイ・サネが並んだ。

ただ、その実体はフェルナンジーニョが最終ラインまで下がって守備を補填するというものだ。ペップ・シティの偽センターバックの原型だった。

■トータルフットボール

1970年代。オランダがトータルフットボールで世界を席巻した。

アヤックスが1971年からチャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)3連覇を達成し、フェイエノールトが1970年に同大会で優勝を果たした。そして1974年のワールドカップで、オランダ代表が決勝まで勝ち進んだ。

当時のオランダ代表の中心選手が、故ヨハン・クライフだった。加えて、クライフには監督としての才能が備わっていた。バルセロナで、その能力は如何なく発揮される。リーガエスパニョーラ4連覇、チャンピオンズカップ優勝など、数多のタイトルを獲得した。クライフ指揮下で、アンカーのポジションで起用されたのがグアルディオラだった。細身の体で、チームの舵取り役を務めた。

バルセロナが、クライフ政権(1988年ー1996年)とグアルディオラ政権(2008年ー2012年)で黄金時代を謳歌した。ただ、「クライフ以降・ペップ以前」の時代において、センターバックの役割は、主に守備であった。

フランコ・バレージ、マルセル・デサイー、リリアン・テュラム、パオロ・マルディーニ、アレッサンドロ・ネスタ、ファビオ・カンナバーロ...。彼らは的確な読み、タイミングの良いインターセプト、空中戦の強さを生かして相手の攻撃を遮断した。

■浸透

ペップ・シティは、これとは異なる。

サリーダ・ラボルピアーナと呼ばれる、ペップが率いるチーム特有の動き方がある。アンカー落ちと呼ばれる動きで、最終ラインで「3vs2」をつくる。ただ現代フットボールにおいては、対戦相手もリスクを冒して前線からプレスをかけてくる。3トップのチームと対峙して、「3vs3」になる場合がある。

ペップのチームでは、この状況でセンターバックはドリブルで相手を剥がす必要がある。そうして中盤に侵入して、数的優位を作らなけれないけないのだ。

そこで選ばれたのがロドリであり、フェルナンジーニョだ。アタランタ戦でロドリが負傷して、グアルディオラ監督は再びメンバーを入れ替えるかもしれない。

だが、偽センターバックの概念は確実にシティで浸透している。後ろからの組み立て、そして前線の破壊力をもってして、ペップはイングランドと欧州の頂を見据えている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事