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長期間の断水から考える「水の備え」。水道管の耐震化1位は神奈川、2位は東京。最下位は?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
耐震管の構造(筆者作成)

全国の重要な水道管の耐震適合率は41.2%

「能登半島地震」では水道の施設に大きな被害があり、水が出ない状態が続いています。これについては、「事前の備え」という視点で考えていきます。


日本中の水道事業者は、地震に備えて建物を揺れに強くする「耐震化」を進めています。全国の主要な水道管(導水管、送水管、配水本管など)の地震に対する適合率は41.2%(厚生労働省「水道事業における耐震化の状況」(令和3年度))です。政府は2028年までにこの適合率を60%以上にすることを目標に掲げています。

【用語解説】
耐震管 地震が発生しても継ぎ目の接合部分が離れない構造の管
耐震管率 基幹管路の長さに対する耐震管の長さの割合
耐震適合性のある管 耐震管と耐震管ではないが布設された地盤の性質や状態を考えると耐震性があると評価できる管
耐震適合率 基幹管路の長さに対する耐震適合性のある管の長さの割合


水道施設の耐震化が重要とされるようになったのは、東日本大震災の直後でした。そのとき、地震の揺れで水道管が継ぎ手で抜けてしまい、断水が発生しました。上図のような柔軟性のある耐震管であれば、ある程度の被害を防げたと考えられます。当時の耐震適合率は全国平均30.3%でしたが、その後10年ほどで41.2%に向上しました。

ただし、全国的に見ると、耐震適合率にばらつきがあります。例えば、神奈川県は73.1%でトップであり、高知県は23.2%で最下位です。そして、今回の水道被害が大きかった石川県は36.8%で、全国平均よりも低い結果でした。

厚生労働省「水道事業における耐震化の状況」(令和3年度)より筆者作成
厚生労働省「水道事業における耐震化の状況」(令和3年度)より筆者作成

進まない耐震化

では、耐震化は進んでいるでしょうか。2020年から2021年の間に、全国の耐震適合率は0.5%しか増えていません。これには財源や人手の不足が影響しています。

水道事業者は経済的に厳しい状況にあります。日本の人口は減っており、2029年には1億2000万人、2053年には1億人を下回ると予想されています。人口減少により、水道利用者も減り、料金収入も減少しています。同時に、節水技術が進んでいるため1人当たりの水の使用量も少なくなっています。

水道耐震化の補助として、国は生活基盤施設耐震化等交付金をもうけていますが、各自治体に割り振られる金額はわずかです。耐震化を進めるには、水道料金を値上げするしかないのですが、市民の負担を増やすという難しい判断を迫られます。国が本気で耐震化を進めるのであれば、補助金の思い切った増額が必要になります。

また、最近は工事業者の不足が深刻で、水道施設の改修工事の入札が不調に終わることも増えています。

耐震化だけではない水道の課題

一方で、現在あるすべての水道施設の耐震化を進めるべきかといえばそうではないでしょう。人口減少にともない水道事業は広げた傘を折りたたむ時期を迎えています。

人口が多い地域では既存の水道を維持し、耐震化を進める一方で、人口減少地域では別の方法が必要です。

今回の地震で被害が大きかった6市町(輪島市、穴水町、能登町、珠洲市、志賀町、七尾市)の水道の復旧は2月末から3月末になる見込みです。すでに1か月以上水が出ない状況ですが、これから1、2か月間も続くのです。

断水が長期化するなかで、自前の水を活用する人もいます。能登には酒造所や醸造所が多く、井戸水を使っていたところがあります。発災後、井戸を開放して活用しています。使っていなかった井戸を整備して、再度活用できるようにする動きもあります。


雨水も活用されています。最初は空気中の塵などがまざっていますが、時間が経つときれいになります。雨樋から容器で受け取ったり、ブルーシートやプラスチックのケースなどで集め、掃除やトイレの流し水に使います。こうすることで水をくむ手間が減ります。

大規模集中型、小規模分散型を選択する

これは人口が少ない地域での水の持続策としてのヒントとなります。大きな施設で浄水し、そこから水を管で運ぶのが「水道」ですが、給水ポイントを小規模で分散して、水の道を短くする「水点」をつくることも考えられます。

「水点」は、浄水やポンプ導水にかかるエネルギーが少なく、安価で管理しやすいという特長があります。1つ1つの施設が地震に強いというわけではありませんが、分散しているため、1つの浄水場が壊れたから、そこから水を供給されているすべての家庭が断水してしまうことはありません。

小規模分散型の水点の技術は多種多様です。地下水を水源として活用し、紫外線発光ダイオードで殺菌して安全な飲み水をつくる技術、生物浄化法といって微生物のはたらきで汚れた水を濾過する技術、民間企業が企画し住宅ごとに設備された膜ユニットによって水を濾過する技術も実装可能になっています。

大規模集中型、小規模分散型とも技術はそろっています。あとは自治体がどの技術を選び、どう管理するかが課題となります。広げた大きな傘を閉じていくだけでなく、いくつもの小さな傘に差し替えていくことが大切です。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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