【宝塚市】ミクロの世界で自分探し 高田光治のミクロコスモス劇場展
宝塚市立文化芸術センターで開催中の『高田光治のミクロコスモス劇場展―粘菌と胞子がつむぐ物語―』(※「高」は、正しくは「はしごだか」)に行ってきました。
粘菌と美術家とのコラボレーションによって生まれたアート。驚きの世界は必見です!
粘菌とは
粘菌は、単細胞生物の一種であるアメーバ動物です。環境の変化に合わせて形を変えながら生き抜き、食物連鎖において腐敗を調整することで森を守っています。高田さんは、粘菌の活動を休止させて閉じ込め、粘菌に影響が出ない形でアート作品に表現しています。
自然と響き合う
異質なものが出合うことで響き合い、物語が生まれる。作品から立ち上がってくる新しい世界は、どこか懐かしく、また力強く、観る者の内側を揺さぶります。
たったひとつの変形菌と向き合うシンプルな作品から巨大な造形物まで、創作の形態は驚くほど多彩です。
自然の造形物と、シンプルな線や点だけで構成されているのに、宇宙的な広がりを感じるのが不思議で仕方ありません。
掴む、そして待つ
この日はギャラリートーク開催日で、幸運にも高田光治(たかだみつじ)さんご本人にお話しをうかがうことが出来ました。大阪芸術大学で教鞭をとっておられる高田さん。御年70歳の渋いバリトン・ヴォイスに、エネルギーがみなぎっています。
情報過多の現代は、世の中のトレンドといった表層的な価値観に惑わされがちです。そのため現代人の五感は衰え、それはとても残念なことだと高田さんは言います。
日頃から森の中を歩き、粘菌などを採取・観察している高田さん。五感を澄まし、自分の内側で何かが動いたら、迷わずそれを掴み取ることを心掛けているそう。
「直感を信じています。意味を考えるのはそのあとからでいい」
そうして見せてくださった大判の手帳には、採取されたたくさんの葉っぱが挟まれていました。細かく丸い穴がたくさんあいた、あるいは葉脈だけが残った葉は、それ自体がすでに美しいアート。手帳の中で、作品として生まれ変わるべく新たな出合いを待っています。
「人との出会いも同じです。誰かと関わることで心が動く。そして自分の世界が広がり、一歩前に進むことができる」
イタチに心が動く
今回の展示のなかで印象に残ったものに、『PHYSARUMRIGIDUMとイタチ』がありました。PHYSARUMRIGIDUM(イタモジホコリ)とは変形菌のこと。イタチの骨と変形菌の並びが食物連鎖を想像させる作品です。このイタチの骨も、森のなかで発見したんだそう。
「あっ骨だ、と思って、(直感が動いて)ぱっと拾いました」と、高田さん。
形がキレイに残っている頭部から、生きていた頃の体温や動きが伝わってきます。骨になった今も愛らしく親近感を覚えるのは、自分の未来が重なるからでしょうか。ふだん、いまここにいる自分に疑問を感じることはありませんが、こうした作品を観ると、自分は長い旅の途中にいて、周りに大きな世界が広がっていることに気づきます。
作品をスケッチできるワークスペースも
本展覧会では、来場者参加型のワークショップも実施しています。事前予約等は不要で、来場者は自由に展示作品をスケッチしたり粘菌の様子を模写できるスペースがあり、出来上がった作品は壁面に貼って、展示に加えていくのだそう。新しい出会いと世界の広がりを大切にする高田さんらしい試みです。
ミクロの世界の住人たちは、愚直に自分の役割を果たしながら淡々と生活しています。その軌跡は美しく、そうした住人たちと共に紡がれる高田さんの作品は、生きとし生けるものの存在すべてを、まるごと肯定してくれている気がします。人は案外、自分自身が持っている豊かさに気づいていないのかもしれません。懸命に生きる姿そのものがアートであって、最後まで生ききることに価値がある。たくさんの物語に、何だかとても励まされた展覧会でした。
展覧会情報
『高田光治のミクロコスモス劇場展―粘菌と胞子がつむぐ物語―』
2023年7月29日(土)~9月3日(日)
開館時間:10時~18時(ただし入場は17時30分まで)休館日:毎週水曜日
場所:宝塚市立文化芸術センター 2階メインギャラリー
〒665-0844 兵庫県宝塚市武庫川町7-64
Tel:0797-62-6800 Fax:0797-62-6880
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